全部合意の上だから
「……本当ですか?」
「おう。本当だとも!」
いやはや、だってそう言うしかないだろう?
異性のクラスメイトと同居しているだなんて言ってみろ。
さっきまでの入江さんの諦めムード、全部パーだよ。
武田君、さっきあんなにご高説を垂れ流したのに、そんなやましいことしているの……?
そんな感じで入江さんに断罪される姿が浮かぶ浮かぶ。
……いや、決してやましいことは速水とはしていないんだけどな。
速水としたことと言えば……。
彼女の下着を洗濯して。
彼女と一緒に一つの布団で寝て。
泣きじゃくる彼女に抱き着かれて……。
……あれ?
これ、アウト?
いいや、セーフ。セーフセーフ。
合意の上だから。
これ全部合意の上だから。
だから、セーフだろう。
誰でもいいから、そうだと言ってくれよ……!
「本当ですか?」
「本当マジ本当嘘はない本当全部冗談」
「ど、どっちなんですか?」
「アハハ。もういいじゃないかい。気にするなよ、入江さん!」
この場にいるのが恐ろしくなって、俺は切り上げるように微笑み、入江さんの肩を叩いた。
「ほら、もう五分経ってる。ごめんな。本当ごめん。もう練習始まるからさ。断腸の思いなんだけど、マジごめん」
「……ちょっと待ってください」
「はい」
入江さんの冷たい声で、俺は立ち去ろうとしたものの、制止した。
「武田君、あなたの得意料理を聞いてもいいですか?」
「な、なんで?」
「好きな人の得意な料理を知りたいと思うのは、当然じゃないですか?」
なんか圧を感じる以外は至って普通に思えた。
「えぇと……シチュー」
「はい」
「え、まだ言うの?」
「当然です。武田君、毎日シチュー食べているんですか?」
「アハハ。そんなことあるはずがない」
「なら、どうぞ」
「から揚げ」
「はい」
「ロースカツ」
「揚げ物ばかりですね。はい」
「……ま、麻婆茄子」
「はい」
「……ロールキャベツ」
「……なるほど、よくわかりました」
「そっか」
なんだか、最後の審判を受ける死刑囚の気分……。
「武田君」
「はい」
「バラエティに富んでて、凄いです。やっぱり武田君は凄いです!」
なんだか、肩の荷が下りた気がした。
「いいや、まだまだだよ。俺ならもっと色々なものを作れるはずなんだよ」
「ふふふ。武田君、やっぱり君はストイック過ぎて、凄いですね」
「そうだろうそうだろう。アハハハハ!」
「ふふふふふ」
額に脂汗を滾らせながら、俺はこのまま不格好に微笑み続けて、練習に向かった。
入江さんは笑っていたが、どうにも笑っているようには見えなかった。途中までは上手くいっていたのに、どうしてこうなった。
恐らく、というか確実に。
この事態は、平田とかいう先生のせいだった。
その日の部活動、俺はいつにもまして精彩を欠いてしまった。監督から叱られながら、俺は平田とかいう教師への憎悪を募らせた。




