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ラブレター

 昼休み、速水を置いて一人連中からの詰問を逃れるべく、俺は部室に足を運んでいた。昼休み、我が校の野球部は練習をしない。やれることが限られてるし、それならば昼休みぐらい仲間内で騒がせてやろうという監督の計らいだった。

 俺としたら無駄な配慮なことこの上ないが、まあ皆のモチベーションがそれで保たれているというのなら、無理に文句を言うつもりもなかった。


 とまあそんな背景もあるからか、日頃から鬱憤溜めているこの部室に、野球部の連中が昼休み訪れることはありはしない。


 だから俺は、昼休みに敢えてここに訪れたのだった。


「汗くさ」


 部室に足を踏み入れるや否や、俺は鼻を塞いだ。くっせえ。


 まったくあの連中、この部屋を綺麗に扱おうという気がまったくない。行き過ぎたルーティーンとばかりに俺が週一くらいでここを掃除するくらいで、後は全てがおざなりだ。

 本当、酷いもんだ。


 日頃から整理整頓を心がけることが、どれくらい素晴らしいことかをまるでわかっていない。


 ……と、野球部の連中に対する愚痴はそこそこに。


 一先ず簡易的にファブリーズをシュッシュッした俺は、多少マシになった匂いに気を取り戻しながら、ベンチに腰掛けた。


「それで、と」


 持ち込んできていた鞄から、俺は朝見つけた件のラブレターを開封した。これまで親が転勤族という都合もありこういうものはもらったものがなかったが、いざもらうと中々浮足だって居心地が悪いものだな、と思っていた。

 だから、さっさと中身を見てすっきりしようと思った。


「なになに?」


 ラブレターの文字が中々に達筆で、俺は感心げに唸ってラブレターを読み耽った。


『拝啓 武田哲郎様


 小暑を過ぎ、夏本番を迎えました。茹だるような暑さの今日この頃、武田君におかれましてはお健やかにお過ごしのことと思います。

 さて、早速になりますが、先日の武田君の夏の予選での大活躍。直接球場で拝見させて頂きました。

 大した目標を持たずに我が校に進学した私にとって、あの日の滾るような活力を示す武田君の姿は、それはまるでこの暑中の中で、青い青い大空で私達を見守り包み込んでくれる太陽のように眩しく、そして熱く見えました。

 あなたの姿をこの目で追い始めたのは、丁度今から三か月程前でした。入学当初、右も左もわからない私は今後への学校生活に不安を抱えながら、帰路に着いていたのです。


 そんな中私が見つけたのは、普通科でありながら野球部の監督に物申す偉そうな中学生上がりの男子の姿でした。


 最初は、野次馬根性だったのです。

 自惚れる男子の行く末を、今晩の肴にでもしようと思っていたのです。


 私は、そんな邪な感情を抱いたことを後悔させられました。


 あなたは、自惚れなんて知りませんでした。自分の状況をキチンと理解していて、贔屓目に見れば横暴なことでも文句も言わず、ただ自らの価値を周囲に示し続けていました。


 昨日のあの決勝戦のあなたの活躍は。


 そのあなたの成果の集大成にも、私には見えました。


 初回、吉村先輩に見せていた悔しそうな顔。

 七回裏の雄たけび。

 八回の逆転弾。

 

 難敵との対決を楽しみ、興奮し、結果を示す。


 そんなあなたの集大成が、あの試合だったと私は思いました。


 あなたのその姿を、直接拝めて良かった。


 あなたのことを好きになれて、良かった。


 あの試合を見て興奮が抑えきれなくなり、居ても立っても居られなくなって、この手紙を書いています。

 もしよかったら……。


 お時間は取らせません。

 あなたが練習時間を奪われるのを誰よりも嫌がっているのは知っています。


 だから、お時間は絶対に取らせません。ものの五分で話は終わらせます。



 ですので、今日の放課後、体育館の裏に来てくれませんか?


 入江蘭』

 


 ……なるほど。

 これがラブレターってやつなのか。


 ……まず俺が思ったことは。


「めっちゃ見てるやん、俺のこと」


 入江さんとやらが俺のことをよく見ていたことへの、むず痒いような羞恥だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の女性が、どんな人かが分からなければ、付き合う、ということにはならないですよね。友達から??
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