大ピンチ、来る
宮崎に対しての攻めは、一貫していた。出塁させても、長打でなければ最悪オッケーのボール先行攻めだった。
しかし、炎天下の中のピッチング、前川の球の球威は落ち始めていた。
ワンボールワンストライクの平行カウント、前川の投じたスライダーはボールゾーンにこそ向かっているものの、変化しなかった。
半速球となったスライダーを宮崎が捉えた。
打球は猛烈なスピードで飛んで……。
「レフトー!」
間一髪、スタンド入りは免れた。宮崎は二塁まで進んでいた。
首都第一高校としても一点が欲しい場面だった。
続く五番の及川は、クリーンナップでありながら送りバント。鈍足ランナーでの送りバントは難しいとされているが、及川はセオリー通りサード前に転がす丁寧なバントを見せて、ワンアウト三塁の大ピンチが巡ってきた。
もう一点もやることは出来ない。
ここからリードを広げられれば、及川のピッチングが大味になる。ここまで接戦故に丁寧な配球を迫り、顔には出ていないがあいつの心労は途轍もなかったはず。
それを、こんな形で壊すわけにはいかない。
「前進守備だ」
監督の言伝を持ってきた伝令係の言葉に、各々がその意味を理解していた。
これ以上の追加点は、敗北を意味する。
「前川、次のバッターは右バッターだな」
俺は汗を一杯掻いている前川に言った。
「ああ」
「打たせて取る。一貫しろよ」
「ああ」
「……攻めろよ」
「わかってらい」
内野に散り散りに戻りながら、俺は後ろポケットに入れていた先ほど同居人からもらったお守りを握りしめていた。
攻めろよ。
その意味は、さっきまで上手くいっていた右バッターへのインコース攻めを止めるなよ、という意味。
俺が守るショートに打球を飛ばさせろ、という意味。
どんな強烈な打球でも、体を張って止めてやる、という意味。
前川も、いいや、あそこで集まった内野の連中も、俺の言葉の真意は理解しているはずだった。
柄にもなく、俺は少し緊張していた。
甲子園をかけた試合。
緊迫した試合展開。
そして、思わず鳥肌が立つような難敵。
……珍しく緊張していて、神頼みでもしたい気分だった。
お守りを離して顔を上げると、まるで待たれていたのかと思うくらい、すぐに前川がボールを投じた。
右バッターのインコースを抉るストレートだった。判定はボール。
続く二球目は、敢えてアウトコースへ。
打者は空振り、これでワンボールワンストライクの平行カウント。
三球目……。
「ショート!」
神のおかげか。
はたまたお守りをくれた同居人のおかげか。
いつにもまして、視界はクリアだった。
飛んでくるボールはスローモーションだった。
どう飛びつけばアウトに出来るか、考えるよりも早く体が動いた。
歓声が沸き上がった。
打球は……。
俺のグラブの中にあった。ダイレクトキャッチで掴み取り、そのままランナーが飛び出したサードにボールを転送。
ダブルプレー。
緊迫したこの場面での最高の結果だった。
「っしゃああっ!」
柄にもなく、俺は雄たけびを上げた。




