膠着状態
四回裏は宮崎を抑えた影響もあってか三者凡退。
五回表、こちらの下位打線に対して、及川はその圧倒的ピッチングを持ってして、たった九球での三者三振に切って取った。
五回裏、前川が相手にする相手打者は、七番から始まる下位打線だった。
前川はここまで、フォークを投じる割合がいつもの試合にまして随分と少なかった。
多分、打たせて取るピッチングをすると決めた時点から、握力を奪い諸刃の剣であるフォークを温存するつもりでバッテリー間で投球を組み立てているのだろう。
代わりと言って正しいかはわからなかったが、バッテリーは右バッターにはインコースを。左バッターにはアウトコースを軸にするピッチングを展開していた。
前川達は右バッターには引っ張り方向。左バッターには流し方向。どちらも三遊間を意識させるつもりなのだろう。
……ブルペンの時から前川の調子は良さそうと思っていたが、それに感化されるように俺も今日は一段と冴えてるし、体の動きも切れていた。
その辺を見越しての組み立てだろう。
つまりバッテリーは、俺にアウトカウントを稼げ、と言っているのだろう。
……上等だ。
この回、バッテリーの策略に、二人の右バッターが引っかかった。三遊間に飛ぶ強烈な打球を、俺は歓声が湧くくらいの好判断で二つ捌いた。
続く、六回表。
打席は、俺からだった。
及川の初球は、三度チェンジアップだった。ここまでくるともしかしたら、と思ったが、裏目を引く可能性を考えると手を出せなかった。
二球目はストレートが高めに浮いた。
カウント、ワンボールワンストライク。
三球目……。
「ストライク」
まったく頭にないカーブだった。
目線を逸らされて、俺は打席で顔を歪めた。
まあ、いつか思ったことだが、カーブは連投はしてこないだろうと思っていた。あくまで緩急のため。目線を変えるため。
それが及川のカーブだった。
……と思った四球目、再びカーブが投じられた。打順も三巡目、及川はパターンを変えたいと思っているのだろう。
ボール気味のカーブを、俺は間一髪捉えた。
打球はポテンヒットとなり、俺は今日の試合初ヒットを記録した。
「あっぶな」
一塁から、俺は呟いた。あのままカーブが有効と思われてしまったら、最悪だった。なにせ大事なこの終盤で、及川は一つ手札を増やすことになるのだから。
このヒットはギリギリなヒットだったが、初見の相手にもカーブはヒットにされる懸念がある、と十分に思わせることが出来る結果になっただろう。
そして、俺が塁に出れた。
準決勝の時みたく、足を絡めて球種を限定させてやる。
そう思ってすぐ、及川は一塁にボールを投じた。
「あ」
牽制球に、俺はまったく反応出来ずにアウト。
試合終盤のこの場面、久々のヒットに気持ちが急いた。完全なミスだった。ただまあ、あいつの牽制も速かった。
結局、この回もこちらは三人で攻撃が終わり無得点。
六回裏、七回表と三者凡退で試合は進んだ。
そして、七回裏。
打席には、宮崎が立っていた。




