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開き直り

 二回裏の前川のピッチングは、右打者が続く六、七番への連続三振から始まった。

 続く八番打者は、相手打線最後の左バッター。


 なんだかデジャヴュな展開だな、と深めに守るショートのポジションから俺は思っていた。この展開は、まるで初回と同じだった。


 前川は、右打者に相対する時よりも目に見えて投げづらそうにピッチングをしていた。

 スライダーという球種を、左打者というだけで多少抑止させられているのが辛いところなのだろう。


 まあ、それでもいつもの試合ならばそんなのお構いなしに前川は左打者を抑えるのだが、初回の失点は結局のところ、前川のフォアボールから始まった。その辺が脳裏を過って、同じ轍は踏まないように、ということで慎重になっているのだろう。

 そして、それが裏目に出ているのだろう。


 カウントは、スリーボールワンストライクとなった。

 五球目のストレートは、低めに外れた。初回同様、またフォアボールとなってしまった。


「クソ!」


 前川が苛立ちを露わにし、マウンドの砂を蹴っていた。

 内野手一同がマウンドに集結した。


「構うな。ショートの方に打たせればいい」


 いの一番に、俺は前川に声をかけた。

 一同が、目を丸めていた。


「相変わらず、すっごい自信」


「鍛えてますから」


「そうかいそうかい」


 吉村先輩は、面白そうに笑った。


「前川、そもそもお前、何を力んでいるんだよ」


「あんだと?」


「さっきから見ていて思っていた。お前、随分と球数かけて、際どいコースばかり狙っているじゃないか」


「そりゃあ、一点取られたら負けるような投手相手なんだから当然だろ」


「もう一点取られているけどな」


 俺は肩を竦めた。


「うぐ……」


「もっと大胆に行けよ。そりゃあ、四番の宮崎とまともに勝負しろとは言わないけどさ。このまま行くと、お前の一人相撲になるぞ。

 打たせて取ろう。アウトが取れなかったらバックのせい。それくらいの気持ちでカウントも気にせずに投げろよ。

 このままじゃ、二百球投げこむことになるぞ、この炎天下に」


 前川は俺の言葉にしばし逡巡していた。


「そろそろいいかな」


 審判が声をかけたところで、前川の気分をほっぽって俺達は守備位置に戻った。


 走り去りながら、前川の顔をチラリと覗いた。なんだかさっきより強い目をしているように見えた。


「プレイ!」


 ……とはいえ、前川さんよ。


「ショート!」


 開き直って、誰もど真ん中に投げろとは言っていない。


 前川の投じた初球ストレートを九番打者は強振した。我ながら、良い一歩目を切れた気がした。


 とはいえ、鋭い打球は捕れるかどうか、中々に危うかった。


 ……が、ああまで言った手前、このボールをアウトに取らないわけにはいかないと思った。


 外野に抜けそうなボールを、俺は体を目一杯伸ばして、スライディングキャッチした。そのまま体が前進する反動を利用し手を付いて立ち上がり、振り向きざまに一塁にワンバウンド送球を投じた。


 新井が上手くショートバウンドに合わせてボールを捕った。打者の足はそこまで速くなく……。


「アウトッ!」


 一塁塁審の判定に、球場が湧いた。

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