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で、結局なんでここにいる?

 しばらく笑い合って、俺は思い出した。


「で、結局なんでここにいるの」


「そういえばそんな話だったね」


 喧嘩の理由を互いに水に流したからか、速水は快活そうに返事をしてくれた。


「……うぅん、ただ素直に教えるのも、なんか面白くない」


「なんだ、それ」


 勿体ぶる奴だな。

 トイレ行きたいんだけど、いいかな。


 だって速水、俺がトイレに行きたいがために彼女をないがしろにしても怒らないんだし。


「ほら、考えて考えて。試合始まっちゃうよ」


 じゃあ、尚更早くトイレ行かせてほしいんだけど。

 まあこうなった速水は、我儘勝手極まりない。彼女の真意を答えるまで、俺を解放してはくれないだろう。


「うぅむ」


「わからない?」


「まだ考え始めたばかりだろうに」


「そうだね」


 クスクスと速水は笑った。


「わかった」


「はい。哲郎君、答えをどうぞ」


「男漁り」


「は?」


 とても冷たい声で、珍しく俺は速水のことを恐れた。


「冗談だ」


 冷たい声を浴びた後でなんだが、確かに速水、及川にナンパされて戸惑っていたんだものな。ありゃあ、男漁りしに来た奴の反応ではない。

 ……もしくは、及川がタイプでなかったか、か。


 そういえばこの前、速水は及川のことを好みではないと言っていた。


 ん!?


 というかやっぱり、答えは男漁りじゃないか!


「……早くしてよ」


「おう」


 再び、男漁りということも叶わず、俺は腕を組み、俯いて唸った。


 速水がここに来た意味、か。


 まあ、普通に考えて……男漁りでないなら、誰かの激励ぐらいしかないよなあ。

 普通に考えたら男漁りが真っ先に浮かばないと思うのはナンセンス。

 

 となると、誰の激励か、か。


「前川の激励に来た」


「誰?」


「ウチの一年ピッチャーだ。アイツ、あんたのこと知っている風だったし、顔見知りだと思ったんだ」


「なるほど。だけどごめんね。あたし、前川さんのこと知らない。まあ、誰かの激励をするために忍び込んだことは合っているよ」


「ほう」


 じゃあもう正解でいいんじゃないか、と思った。

 トイレも近いしな。


「ほら、その人よりもあたしと付き合いが長い人、いるでしょ」


 悩み耽る俺に、速水はヒントとばかりに言った。


「悪いな。俺、あんたの交友関係に明るくないんだ」


 いつかもっと頼れと言っておいて、彼女の話を未だ聞き切れていなかったことを実感して、俺は申し訳ないと思いながら俯いて言った。


「……何よ、それ」


「悪いな」


 速水は、俺の顔を見て、しばらく呆れて、ため息を吐いた。


「……お馬鹿で方向音痴でマイペースな哲郎君」


「なんだ」


「あなたがいくらあたしの交友関係に詳しくなくても、わかる人だよ」


「そんなことがあるのか」


「あるの」


「そうか」


 俺はあっさりと言い含められていた。

 そうか。そんな人が……いるのか?


 難しい顔で首を傾げていると、速水は再びため息を吐いて、俺に近寄ってきた。


「ん」


 そして、俺の胸に右手を押し付けてきた。

 ゆっくりと速水の右手が開かれると、彼女が握っていたのは、お守りだった。


「何さ、これ」


「だから、あんたの激励に来たんだよ。それで、昨日学校帰りに買っておいたお守りをあげるんだ」


「……おおう。なるほど。そういうことか」


 速水からお守りを受け取りつつ、確かに俺相手ならばいくら俺が速水の交友関係に詳しくなくとも、彼女が誰の激励に来たのかはわかるものだなと思っていた。

 いやはや、中々トンチが効いている。


「ありがとうな。昨日渡してくれれば良かったのに」


 そうすれば、及川に絡まれることなんてなかったのに。


「神社に寄ってそれ買った後にさ、スーパーで夕飯の買い物したんだ」


「ほう。それで?」


「……さっきのさっきまで忘れてました」


 俺から目を逸らしながら、速水は引きつった笑みを浮かべていた。


「……忘れられてたお守り」


 なんだか少し、不吉。


「ご、ごめんね?」


 謝る速水がおかしくて、俺は微笑んだ。


「謝る必要なんてないだろ。ありがとう。本当にありがとう。このお守りに誓って、絶対に活躍して見せよう」


「うん。頑張って」


 報われたように、速水は微笑んでいた。

 それからしばらく彼女と雑談して、トイレに行かなくていいの、と速水に聞かれたことを拍子に、途端にトイレが近くなって、彼女は応援席に戻っていった。

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