なんでここにいる?
「で、あんたはなんでここにいるの」
及川が去り呆れかえってしばらくして、俺はようやくこんなところに速水がいることの違和感に気が付いた。
速水は、そっぽを向いていた。多分だが、どうやら怒っているらしい。
「なんだよ、及川に絡まれたのがそんなに嫌だったのか」
だとしたら、及川が少し不憫で、凄く面白い。
「違う。哲郎のお馬鹿っぷりに呆れてたの」
「馬鹿? それは……あるな。今度の期末テストも、どうかお一つよろしくお願いします」
否定しようがなくて、俺は丁寧に頭を下げた。
「嫌。もう手伝わない」
「そんな殺生な」
「ふんっ」
速水は鼻を鳴らした。
……ううん。
俺、速水を一体全体どうして怒らせてしまったのだろう。
「そうか。そういうことか」
しばし考えて、一つ思い付いた。
「やっとわかった?」
「ああ、考えてみれば答えはすぐ出たよ」
こんなのわからない方がおかしい。ふ、今日の俺は、随分と冴えているな。
「……なんだかすごい不安」
速水は目を細めていた。
「というか、多分間違いだよ、それ。なんだかんだ付き合い長いし、あんたの勘が悪いことは知っている」
「えぇ、そうか?」
俺は頭を掻いた。そうか、違うか。
「そうか。あんたをないがしろにしてトイレに行こうとしたことが原因じゃなかったのか」
「あんたって極稀に非常に勘が鋭いわよね」
「え、合ってたの?」
「……いいえぇ? 違いますけどぉ?」
速水はおどけて続けた。
「あくまでそういう時があるってだけ。今この場がその場だとは言っていない。つまり、違う。全然違う」
「うーん、そうか。じゃあ、あれかなあ」
「ああ、それよそれ。あたしもそれ、凄いムカついてさー」
「あー、やっぱり? いや本当、あの件は全面的に俺が悪かった。本当にごめん」
「いいの。お互いこのことは水に流しましょ。その方が、多分良いのよ」
「そう言ってくれると凄い助かる。本当、ありがとうな」
「何言ってるのよ、もう何か月一緒に同居していると思ってるのよ」
「そうだな。アハハハハッ!」
笑いながら今の速水との会話をなぞって、一つ疑問が浮かんだ。
あれ、俺は今、速水に原因の推察を伝えたっけ?
いいや、伝えていなかったような……?
でもおかしい。
伝えてなかったら、普通今の速水みたいに、それが原因だよとは断言出来ないよな。
じゃあ、多分俺は自分でも気付かない内に推察を口走ったのだろう。
まあ、そうだよな。
そうじゃなかったら、俺の最初の推察が図星だったくらいしか、速水がこの話をさっさと終わらせたいと思うはずないもんな!
この女、他愛もないことなら結構思ったことは口にしてくるしな!
アハハハハ!
俺ってばうっかり者だなあ! ったくもう!
しばらく、俺達は二人で笑い合った。




