対策? 諦め?
偵察係が撮ってきてくれた俯瞰からの及川のピッチングを見ながら、俺は一人悩んでいた。
「哲郎、ご飯の時はテレビ消そうよ」
「えっ、あ。ごめん」
速水に注意されて、俺はテレビを消した。日頃速水の億劫そうな姿はよく見るが、彼女はご飯時だけはマナーにうるさかった。
……もう少し他の部分にもやる気出したほうがいいんじゃない?
「今の決勝の相手だよね。この前の練習試合でも投げてた人」
「そうそう」
「結構、顔格好いいんだね。遠くからじゃわからなかったけど」
突然変なことを言い出した速水に、俺は目を丸めた。
「へぇ、ああいうのがタイプなの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。ただあの人がプロになったら、背も高くてスタイルもいいし、そこかしこの女性が黙ってないだろうなって思っただけ」
「アハハ。そうかもしれないな」
なんだか変な気分を抱いたものの、俺は一先ず笑い飛ばした。
「で、打てそうなの? その人を」
「びみょい」
「えー」
速水は唇を尖らせていた。
「……あんた、この前の練習試合ではヒット打ってたじゃない」
「ありゃあストレートに絞り込んでたから打てたんだよ。左の速球派で変化球まで織り交ぜられたら、そう簡単に打てるもんじゃない」
「へー、右ピッチャーとはまた違うの」
「全然違う。逆手から投げられることで、回転もリリースポイントの見え方もいつもと勝手が全然変わるからな。結構大変なんだ」
「ふーん。……おかわりいる?」
「欲しいです」
俺は速水にお椀を渡した。
速水は微笑みながら、ご飯をよそいに立ち上がってくれた。
「打つ手段はないの?」
「そう思ってビデオをずっと見てるんだけどなー。全然わからん。チェンジアップ投げる時、癖でもあれば絞り込めて楽なんだけどな」
「じゃあ、打つ手なし?」
「そうもいかないだろ。俺、甲子園行きたいし」
「素直だなー」
速水は笑った。足音が近づいてくる。
「はい」
お椀を手渡された。
「ありがとう」
俺はそれを受け取った。
「……まあ、打つ手はないわけじゃない」
「そうなの?」
「ああ、まずもっての話だけど、次の決勝では相手が好投手故にロースコア戦に持ち込むことは絶対条件だ」
「今日と一緒だね」
「そう。で、好投手相手には、何よりも長打狙いをすること。これに限る。ヒット繋げようって考えても、中々そうも上手くいかないものだからな。一発で一点。その一点を守り切る。そんな野球出来たら理想だ」
「ほー」
「そのためにも、まずは狙い球をキチンと考えて絞らにゃならん」
「うん」
「で、及川の持ち球を考えてみたが、どれもレベルはやはり高くて辛いところがあるが、一番狙うならほぼ消去法でストレートだと思ってる。投球割合、ほぼストレートかチェンジアップってのもあるしな」
「じゃあストレートかチェンジアップを見極めて打てばいいわけだね」
「そんな簡単ではないけど、つまりそういうことだな。じゃあどうすればストレートを打てるか。つまるところ、チェンジアップに空振りしないでストレートだけを振れるか、だ」
「へー、癖ないって言ってたのに、ストレートを打つ手段、あるんだ」
「まあな。目をつけたのは、あいつのチェンジアップのコントロールの良さだ。あいつのチェンジアップ、空振りを取るために低めのストライクゾーンからボールになるように変化していっているんだよ」
「うん」
「だから俺はさ……。
低め、捨てようと思う」




