そうも上手くいかないものである。
それから三日、柳の投球を研究して、試合開始の日はやってきた。
試合前のウォーミングアップ、日の丸大学付属は軽快なボール回しをしていた。
「はええ」
その真ん中のマウンドで、柳は投球練習を行っていた。球は、やはり結構早い。キャッチミットに収まる音は乾いて大きかった。あの球に相対せると思ったら、面白そうで身震いしていた。
スタメンは、今大会いつも通りの打順となった。一番には一緒に二遊間を組む吉村先輩。二番はショートで俺。三番には新井。
先発投手は、大貫先輩となっていた。
「チクショウ」
前川は、端で悔しそうにしていた。
「今日投げないってことは、お前が決勝で投げるってことだろう。何を悔しがる必要がある」
「……投げるなら、準決も決勝も両方投げたかった」
俺は目を丸めて、笑った。
「殊勝な心掛けだな」
「喧しい」
そんなやり取りをしばらくして、試合は開始された。
ここまで大会を勝ち進めると、俺に対する研究も進んでいるのか、俺に対する舐めたような野次とか罵詈雑言はなくなっていた。
一回表。こちらの攻撃から試合は始まった。
吉村先輩は、珍しくまるでバットをまともに振らせてもらえず、四球目をひっかけてサードゴロとなった。
そして、二番の俺の打席。
柳はワインドアップから初球を投げた。
「……うっ」
初球は、アウトコースのストレート。ゾーンにかかるか否か、審判の裁量次第のところだが、
「ストライク」
今日の審判はストライクのコール。ここまでゾーン広め、か。今後あそこにストレートが来たらバットを振らなきゃならない。こりゃあ、厳しい戦いになりそうだ。
二球目は、再びストレートだったが、今度はインコース高め。
俺は再び見送った。
やはり、柳はコントロールがいいな。この球も、審判の裁量次第の判定が割れるボールだ。
「ボール」
……なるほどね。
俺にしても、こうやって際どいコースを攻められることで、この審判のストライクゾーンの見極めをさせてもらえているわけだが、相手にしてもそれは同じなんだな。
まだ初回、相手バッテリーの思惑としては、まずはゾーンの見極めをしたいという考えだろうな、これ。
ここまでの二球で、審判のゾーンは通常より外目にあることがわかった、と。
ううむ。となると、狙い球は二球目までのストレートだった。左右のゾーンがわかった今、柳としてはストレートを三球続けなくとも良いと考えているかもしれない。
三球目、柳が投じた球は……。
「くそっ」
三度ストレートだった。ストレートに差し込まれた俺の打球は、フラフラと外野フェンス際まで飛んでいって、ライトにキャッチされた。
「うおおっ、意外と飛んだ!」
柳はアウトになった打球に驚きの声をあげていた。
やはり、こりゃあ一筋縄ではいかない相手だな。
その後の新井は三振となり、初回は三者凡退。
その裏、大貫先輩はランナーを二人出したものの無失点。
そこから試合は膠着状態となった。
試合が動いたのは、三回裏だった。大貫先輩は、先頭打者を四球で出塁させてしまった。
「……頼むぞ」
一失点くらいならまだチャンスがあるが、大量失点となれば、柳を打ち崩すチャンスがなくなってしまう。
ショートから一人投手に念を送り続けた。
しかし、そう上手くいかないもので……。
「おうふっ!」
相手打者の打球は、大貫先輩の足に直撃した。大貫先輩はバランスを崩して転倒。
打球はこちらに転がってきて拾うも、威力が完全に死んでいて、捕まえる頃にはランナーはオールセーフとなっていた。
「大丈夫か、大貫」
大貫先輩は痛みから苦悶の表情を浮かべていた。味方ベンチが慌ただしくなっていた。
「痛い。痛い。痛い」
新井と一緒に大貫先輩を担いでベンチ裏まで向かった。大貫先輩は、歩く度に痛いと言っていた。こりゃあ、続投無理そうだな、と思っていた。
しばらく待って、投手交代のアナウンスと共に、前川がマウンドに走ってきた。
決起集会で内野陣がマウンドに集まった。
「大貫先輩は?」
「めっちゃ足腫れてた」
そりゃあ、決勝も無理そうだな。
「前川、大丈夫か?」
吉村先輩が前川に聞いていた。
「なんとか頑張ります」
「わかった。頑張れ」
内野陣は定位置に戻っていった。
前川の手短な投球練習を挟んで、試合は再開された。
「前川、なんとかしろっ」
俺はショートから叫んだ。
しかし、前川の球はいつにもまして球威がなかった。やはり、スクランブル登板による投球練習不足は否めなかった。多分、まだ肩が温まっていないのだろう。
日の丸大学付属の打者陣は、そんな準備不足の前川相手に容赦ない痛打をお見舞いし続けた。
どれくらいこの回の守備は続いただろうか。
結果として、前川は大貫先輩の貯めたランナーの生還含めて、四人の打者をホームに生還させた。
四対ゼロ。
速水にいつか語った攻略法だと、カーブを狙い打つには腕が緩まるよう、コントロールを意識する緊迫した試合展開をしなくちゃいけない。
四対ゼロ、というスコアは、その柳攻略作戦の前提条件を崩壊させるスコアの、瀬戸際だった。




