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大会初戦

あけましておめでとうございます。今年もよろしくね!

「なあ、動画の見方教えてほしいんだけど」


 夏の予選、我らの高校の試合前夜、学校でいつも通りの練習を行ってきた俺は、いつも通り楽しそうにテレビを見ている速水に声をかけていた。相も変わらず、速水はTシャツ、ハーツパンツという薄着な出で立ちだった。


「え、何々? もしかしていかがわしい動画を見るの?」


「違うわ。明日、俺試合だろう」


「あー、そうだね。そうだったね」


 この同居人、先日は試合頑張れとか言ってたのに、直近になればこの始末か。酷いものだ。


「冗談冗談。覚えてたよ。不貞腐れないで」


「不貞腐れてない」


 即答して、俺はため息を吐いた。


「で、俺明日試合だろう。それで、ネットで動画を漁って、明日の試合のピッチャーの特徴とか、事前に見ておきたいんだ」


「なるほどね。学校名は?」


「駒混工業高校」


「あー、あんまり良いうわさ聞かない学校だ」


「そうなのか?」


「うん。不良みたいな生徒ばかりって聞いた。気を付けてね」


「おう。で、動画ないかな。吉村先輩に聞いたら、最近はネットに普通に転がってるって聞いたんだ」


「あー、なるほどね。ちょっとスマホ貸して」

 

 速水にスマホの操作方法を手ほどきしてもらって、俺は目当ての動画を見つけた。

 投手の球は、百二十キロくらいらしい。オーソドックスな右投げオーバースローだった。クイック投球の動画もあったが、モーションは結構緩慢。球速もクイック時は少し遅くなるらしい。


「ねえ、哲郎」


 速水にそう呼ばれ、俺は飛び上がった。

 つい先日以降、速水の俺に対する呼び名が武田から下の名前に変わっていた。女の人にそう言われるのは、母以来で、脳裏にいないはずの母の顔が蘇って、どうにもいつも驚いてしまうのだった。


「はい。なんでしょう」


「質問です」


「なんでしょう」


「この前さ、明日の試合相手は下馬評では勝てるって言ってなかったっけ?」


「言ったな」


「だったら、なんでそんなに食い入るように動画見るの? そこまで注意する必要あるの」


「どこまで注意すべきかわからないから動画を見たかった」


「なるほどね。それで、何かわかった?」


「オーソドックスな右投げで球速は百二十キロくらい。変化球はカーブだけで、クイックモーションになると球速も落ちるのとモーションも緩慢。盗塁も期待できる」


「長くてわからなかったけど、勝てそうってこと?」


「わからない。試合が始まるまで、どうなるのかはわからないだろう」


「ふむ。確かに」


「何があるのかなんてわからないんだから、試合前に出来る準備は全部する。それは当然だと俺は思っている」


「さすが、ミスターストイック野球馬鹿」


「おう、褒めてくれてありがとう」

 

 速水は皮肉にお礼を言った俺を笑って、俺が食い入るように見ているスマホに顔を近づけてきた。シャンプーの仄かな香りが鼻孔をくすぐって、何だか変な気分に俺はなっていた。


「その動画だけで、よくそんなに色々わかるね」


「打席で見るより、むしろ俯瞰で見たほうが色々わかるぞ」


「……ふーん。あたしにはよくわからないや」


 俺は不満げな速水を見て、微笑んだ。


「ねえ、哲郎は明日何番で出るの?」


「当日まではわからん」


「えー、折角明日見に行こうと思ってるのに。つまんなーい」


「一応練習試合とかだと、最近二番に入ることが多いな。でるとしたら、その辺だと思う」


「へー、茜に聞いたけど、上位打線の人のほうが凄いんでしょう?」


「打順の組み方によるが、基本的にはその考えで良いと思うぞ」


「じゃあ、哲郎は凄いんだ。そういえば、この前はホームラン打ってたもんね」


「ああ、日頃鍛えている分は凄いぞ」


「なんだか素直じゃない言い方ね」


「俺は自惚れないからな」


「はいはい。じゃあ明日、頑張ってね。……絶対、勝ってよ?」


「勿論だ」


 そう言って、俺達は眠りについた。


   *   *   *


 試合前の更衣室で、今日の試合のスターティングオーダーが発表された。俺は、無事二番ショートでスタメン出場となった。

 ちなみに三番にはファースト新井。ピッチャーは大貫先輩と前川の分業で回すことになるらしいが、今日の先発は大貫先輩だった。


 試合開始前、俺達はウォーミングアップをベンチ傍で行っていた。三塁側のベンチに相手校の選手が集い始めたのは、俺達が練習を始めてから二十分くらい経った後だった。昨晩、速水に相手校の治安がどうのを言われていたが、確かにおらついている連中が多かった。


 試合開始前、整列の場でのことだった。


「おい見ろよ、こんなチビが背番号もらってるぞ」


「まじか。こんなのが背番号もらえるなら、俺ならレギュラー確定じゃん。今年の帝国高校終わったな」


 喧しい。

 おらついている連中は、わかりやすく俺に喧嘩を売ってきていた。多分、他の連中よりも俺の方が頭一つ小さいから舐められたのだろう。


 審判の注意も入ったが、奴らの小汚い野次は止まる気配はなかった。だからか、試合に入ってからも、おらつき集団の罵詈雑言は止まらなかった。


「あのチビショート入ってるぞー」


「ねらい目だぞー」


 そして、どうやら奴らの野次の標的は俺らしい。やはり俺、舐められている。


「ヘイヘイー。チビちゃーん。エラーしちゃダメだよー」


「二番だけど、内野の頭超す打球打てるのかなー? 交代した方がいいんじゃないー?」



 汚い野次だなあ。


 ……まあ、文句を言い返すよりも何よりも、こういう連中を黙らす手段は決まっている。




 カキィン!



 こういう連中を黙らせる手段。


 それは何より、舐められた俺自信が結果を示すこと。


 完璧に捉えた当たりは、レフトスタンドに飛び込んだ。


 先ほどまで騒がしかった連中は、呆然としながらダイヤモンドを駆ける俺を見送っていた。

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