誕生日プレゼント
七月に入り、暑い日が続いていた。
先日の速水とのいざこざ以降、俺は朝の早朝ランニングを止めて、その時間を新聞配達のバイトに当てるようになった。
ランニングも新聞配達も、どちらも早朝の少ない時間で体を動かすことが出来るため、どちらにせよトレーニングであることに変わりはなかった。
そのことを速水に言ったら、またストイックがどうのと言われた。まあ、その時のあいつが笑っていたからノープロブレム。
速水はあれから、一層バイトに精を出すようになった。といっても、学生の内は時間も限られているそうだが。
俺の新聞配達資金も合わせて、さっさと料理教室に通えないのか、と聞いたが、どうやら有名料理教室とやらは俺が思ったよりも全然費用がかかるそうだった。
今年一年、二人である程度の資金を貯めて、生活に支障がなくなるであろう来年から通うようにしようと話し合ったのは、つい先日の話であった。
多少、速水的にも逸る気持ちがあったりしないのか、と不安に思ったことがあったが、意外にも心穏やかに速水は同居生活を続けていた。
野球部の練習の方も、俺は相変わらず精力的に行っていた。
監督からは先日のサボりを咎められることはなく、自分でも驚くくらいトントン拍子に地位を確立していき、夏の予選が始まる直前、俺は正ショートの証である背番号六番をもらっていた。
そして、今日は夏の高校野球東東京大会の開会式だった。
事前に少し練習していた行進を見せて、しばらく炎天下の中つまらない話を聞いて、大会は開始された。
ちなみに、我が校は大会第二シードにあたるため、今日の試合はなかった。
別会場で実施された初戦の対戦校になるチーム同士の試合を観戦し、ある程度の攻略法を検討つけたところで、今日のところは解散となった。
まあ、今日くらいは休めという監督の計らいだったのだろう。
暑いしたまには早く休みたいと帰っていった同じ一年生レギュラーの前川と新井を思い出しながら、さて俺はどうしたものかと天を仰いだ。
「帰って素振りくらいにしておくか」
まあ、たまには控えめにするか。
練習しないはずはないけどな。
「そういえば」
帰路、ふと思い出したことがあった。それは、広末さんか安藤に教えてもらったことだった。
今日は七月六日。
明日は七月七日。その日は、速水の誕生日だった。
「……どうしたものか」
誤解を招かないように。
プレゼントを上げないという選択肢は既になかった。日頃お世話になってる速水への感謝の気持ちを伝えない選択肢なんてありはしなかった。
ただ俺が悩んでいること。
それは、一体何をプレゼントしたらいいのか、ということだった。
先日まで生態調査をしてきたし、あの人との同居生活も結構長くなってきたが、あの人の欲しがりそうな物が、どうもピンとこない。くそっ、このお人好しめ。もっと物欲を出せ、物欲を。
……うぅむ。
悩みに耽っていると、小さな雑貨屋を見つけた。そういえば、いつだか速水と一緒に大きな駅の傍にある雑貨屋に行ったな。
あの時は、俺のスマホ入れを探しに行ったわけだが、そういえばあいつ、キッチン周りの雑貨に興味を示していたな。
その時ことを思い出して、雑貨屋に足を運んだ俺は、キッチン周りの雑貨を見て回った。
一通りそれらしいものを見て、
「おっ」
俺は、一つの商品に目をつけた。
* * *
家に帰ると、速水はバイトでいなかった。俺は庭で素振りに明け暮れた。
「おっ、おかえり」
「ただいま」
日が暮れた頃、速水は帰宅してきた。
「ごめんね。すぐ夕飯作るから」
「ゆっくりでいいぞ、もう少し素振りしてるから」
「うん」
速水が夕飯の準備をする間、俺は素振りを続けた。
しばらくして、あいつに夕飯に呼ばれた拍子に素振りをやめて、ご飯を食べて、交代で風呂に入って、ひと心地ついた頃、俺達は雑談を始めた。
「初戦はいつなの?」
「来週土曜日だな」
「勝てそうなの?」
「下馬評ではな。まあ何があるかわからないし、油断は禁物だ」
「なるほど。とりあえず君が相変わらずストイックなことはわかった」
「それだけわかってくれれば充分だ」
俺は笑った。
「……ところで、明日あんたの誕生日だったよな」
そして、俺はムードもへったくれも無視して本題を切り出した。
「えっ、あたし言ったっけ?」
「安藤に聞いたんだ」
「なんで?」
「……そこはいいだろう」
興味本位で生態調査をしたからとは、やはり口が裂けても言えなかった。
「ふーん。まあいいけどさ、そうだよ。あたし、明日誕生日。これで君より一歳年上。お姉さんだよ、お姉さん」
「たかだか数ヶ月だろう。そんなに誇るな」
「アハハ。わかってるよーだ。で、藪から棒にどうしたの?」
「ん。誕生日プレゼント買ってきたぞ」
「えぇっ!?」
速水は大層驚いた顔をしていた。
「そんな、悪いよ」
「日頃のお礼だってば。受け取ってくれよ」
「……でも」
「じゃああれだな」
「あれ?」
「あんたがシェフになったら、これにサインして返してくれ」
いつかの速水みたいなことを言ったら、彼女はすぐに吹き出した。
「わかった。そうする。……開けてもいいの?」
「おう」
速水はプレゼントを受け取って、プレゼント用包装を開けた。出てきたのは、エプロンだった。
「あんた、料理する時エプロンしないだろ」
「うん。億劫だから」
「そういうところは変わらないな」
俺は目を細めた。速水は照れたように頭を掻いていた。
「あっ、ちょっと待っててね」
速水は何かを思いついたように手を叩いて、いつも料理をする時みたく長髪を束ねて、エプロンを羽織った。
「似合うかな」
「お、おう……」
エプロン一つ羽織るだけで、イメージって変わるものなんだな、と俺は思っていた。
何だか気恥ずかしさしか感じられず、俺は頬を染めてそっぽを向いた。
「……あれぇ? 照れてる?」
速水は俺に対して、からかうように笑っていた。
「……て」
「て?」
「照れちゃ、悪いのか」
恨めしそうに言うと、速水は今度は高笑いを見せていた。
「今度から、これ付けてご飯作るよ。ちょっと億劫だけどね。折角君がくれたんだもんね」
「そうですか」
「うん。ありがとう。
……試合、頑張ってね」
「おう」
同居人の期待に応えられるように頑張ろうと思って、その日はすぐに俺達は就寝した。
これは試合書くの、越年しますね




