練習で出来ないことは本番でも出来ない
初ヒットの影響なのか、及川は九番の成田先輩に対して四球を与えた。しかし、その後の吉村先輩は結局崩れることなく三振で抑えた。
ベンチに戻る途中、及川は俺を見て笑っていた。
その後、俺はスタメンショートだった成田先輩に代わり、ショートの守備に付いた。九番の成田先輩のところに、大貫先輩がピッチャーとして入った。
大貫先輩は、いつも通りの打たせて取るピッチングでそつのないマウンド捌きを見せていた。
しかし、八回にピンチを作った。
四番の宮崎のセンター前ヒット。そして、五番の及川には四球。ワンアウト一、二塁のピンチとなった。
六番打者の打った鋭い当たりが、三遊間に飛んできた。
「オッケー!」
深めに守っていた俺は、逆シングルでその痛烈な当たりを抑えた。
反転しながら、不安定な体勢でボールをセカンドの吉村先輩に送球すると、胸元ストライク投球だった。
間一髪セカンドフォースアウト。
そして、吉村先輩のファースト転送でダブルプレーが完成した。
「ナイスプレー」
送球後に転んでいた俺にそう声をかけたのは、及川だった。
「どうも」
差し伸べられた手を握りつつ、俺は返事をした。
「お前、名前は?」
「武田哲朗」
「学年は?」
「一年」
「一年? 一年で、俺のストレートを打ったのか」
「鍛えてますから」
「ふーん」
及川はしばらくつまらなそうに唇を尖らせていた。その顔をやめた奴は、微笑んだ。
「九回、ランナー一人出ればまた勝負だな」
「そうですね」
「……その時は、直球しか投げねえから」
「なんですって?」
「練習試合は、練習だろ? 本番じゃない。俺としては、試合勘と……本番での要注意人物をピックアップする場、なのさ」
「へぇ」
「お前、見所あるよ。だから試してやる。本番で本気を出す価値があるか」
そう言い残して、及川はベンチに戻っていった。
九回表のこちらの攻撃。
相変わらず、及川の球威が落ちる様子はない。球数は既に、百六十を超えていた。
たかだか練習試合で、何故この球数を投じてなお、マウンドに上がり続けるのだろうか。
疑問は拭えなかった。
ただ結局、ウチの打線はそんな及川に手も足も出せずにいた。手も足も出ず、あっさりとツーアウトを取られたのだった。
監督は以前と、待球作戦を続けていた。
今日の試合のこちらの待球作戦。果たして効果はあったのだろうか。
結果を振り返ると、及川相手にヒット一本という結果から見て、失敗と言えるだろう。
監督としても、恐らくそれは理解している。
ただその上でここまで頑なだと言うことは、恐らくだが監督としては、もうこの試合に負けることは割り切っているのだろう。
その上で、夏の高校野球予選で激突するであろう及川の球筋に、部員達の目を慣らす。
それが目的となっているのだろう。
つまり、監督にとっても及川同様、これは所詮練習試合でしかないわけなのだ。
その練習試合で結果を残すことに、果たして意味はあるのだろうか。
一瞬、自らの行いがとてつもなく無駄な行為な気がして、俺は天を仰いだ。
しばらく考えて。
意味がないわけない、と悟った。
練習はあくまで練習。
だけど、練習で出来ないことを、本番で。
そんなことが、果たして出来ようか。
俺は鍛えてきたから、自信を持ってプレー出来る。だけど少なからず悟っていることもある。
俺にも、出来ないことはある。まだまだたくさん、存在する。
その度に俺は、出来るようになるまで練習する。どうすれば出来るようになるかを考えて練習する。
そして、出来るようになる度に、俺に結果と信頼が与えられる。
実績がない俺だからこそ、こういう場で結果を残すことこそが、周囲からの俺への信頼となり、自分の能力を自己が信頼する機会となる。
この俺の今の行いは、俺にとっても練習の場であると同時に、自己を周囲、そして自分に認めさせるチャンスなのだ。
俺は、決して自惚れない。
自惚れず、与えられた場面で結果を出して、周囲に俺を認めさせる。
そして、自分に自分を認めさせる。
そうやって、前まで出来なかったことを出来るようになったことを認めて、練習の質を上げていって、更なる高みに上り詰めるのだ。
及川は、七番打者に四球を与えた。ストレートの四球だった。
ネクストから立ち上がり、打席に入る拍子に、汗を拭った及川と視線がかち合った。
相変わらず、あいつは笑っていた。多分、この四球はわざとだ。直感的に俺は悟った。
だから、俺も笑った。
この超高校級ピッチャーを相手に、俺は俺の力を証明し、そして誇示して見せよう。
そう思って俺は……。
及川の投じた百四十八キロの初球ストレートを、バックスクリーンに叩き込んだ。
主人公強くしすぎた感があるけども、これ恋愛小説だから許してくれ




