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ダブルブッキング

 彼女の名前は、速水凛。

 今年から俺と同じ私立に通う十五歳。色んな事情があって、一人暮らしをすることになり、木下さんが大家のこのアパートに今日から入居したとのこと。

 見た目は、多分世間一般では綺麗な部類に入ると思う。世間に疎い、俺が言うのもなんだが。

 スレンダーで出るところ出ている体形。艶めかしい長い黒髪。そして、長いまつ毛に高い鼻。二重の目。なんだかモデルを見ている気分だった。


 そんな女子が何故俺の部屋で下着姿で縦横無尽に闊歩していたのか。

 それは話せば谷よりも浅く、山よりも低い重大な理由なのだが、とにかく要約するとこうなる。


「ダ、ダブルブッキング!?」


 取り乱した速水の声は大きくて、木下さんの元に共に事情を聞きに行った俺は隣で思わず耳を塞いでいた。


 ダブルブッキング。


 つまり、契約ミス。

 このアパートの大家であり個人経営をしている木下さんは、かつてより不動産屋に仲介は求めず、全てを一人で切り盛りしてきた凄い人だった。


 たださすがにそろそろ高齢ということもあり、呆けも回ってきたそうで、うっかり来週退去する人と今日入居する人の皮算用をミスしたらしい。


 まあ、ミスというものは誰でも起こすもので、それを一人でこなす木下さんを責める気には到底ならないのだが、


「つまり、今このアパートの部屋は全て埋まっていて。来週まではどう転んでも使える部屋は、この部屋しかない、と」


 さすがにこれにだけは、俺も速水も困っていた。


「えぇ、本当にごめんなさい」


 誠心誠意謝る木下さんを見ていると、逆にこちらも申し訳気持ちになる始末だった。


「……どうにかする手は、ないんですか?」


「それが、この辺の頼れそうな人には色々聞いてみたんだけど、この季節はやっぱりどこも部屋に空きはないみたいで」


「そ、そんなぁ」


 速水は困ったように呆然としていた。


「じゃあ、来週まではこの部屋を二人で使うしかないわけですね」


 俺はと言えば、最早諦めたようにそんなことを言っていた。


「ちょっ、あたしは嫌よ。見ず知らずの男と一つ屋根の下だなんて」


「だろうね。俺も出来れば知らない人となんて一緒にいたかない。気まずいし。だけど、そうする他手はないだろう」


「むぐぐ」


 歯ぎしりを鳴らす速水は、あほらしい顔をしていた。

 しばらく唸った彼女は、俺への睨みは止めないものの、途方に暮れたような顔をしていた。


「ほ、本当にどうにもならないんですかぁ?」


「えぇ、本当にごめんなさい」


 しかし、泣き言交じりの言葉を木下さんに謝罪されたことで、諦めが付いたらしい。


「へ、変なことしないでしょうね」


「しない。興味ない」


「それはそれで腹が立つな」


 知るか。


 しばらく速水は唸り、そして天を見上げて、ようやく決心がついたらしく、


「わかった。じゃあ、来週までね」


 諦めたようにそう言った。

心理描写を当社比8割カットして会話メインにしようと思ってまする

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