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価値がある選手とは

 速水との同居の再開は、大家である木下さんが快く応じてくれたためにその日の内にさっさと行われた。


 木下さんは、薄々そうなる気がしてたとか言って、お淑やかに微笑んでいた。


 どうしてそういう風な結論になったのかは、俺には到底理解できそうもなかったが、まあ結局、木下さんの思惑通りに動いた結果は事実であり、俺達も望んだ結果だったわけで、非常に助かることこの上なかった。




 そんなこんなで翌日、月曜日。


 俺はいつも通り、早朝四時半に目を覚ました。その後は日課のランニング、素振りをして、速水が目を覚まさぬ内に学校に朝練に行くことになるだろうと思っていた。


「あれ」


 しかし、部屋に戻るとあれまびっくり。

 速水は大あくびをしながら、起床して、何やら台所でせっせと働いていた。


「おはよう」


「おう、おはよう。珍しいな、朝は弱い癖に」


「あれ、もう昨日の約束忘れちゃった?」


「約束?」


 首を傾げると、速水は呆れたように目を細めていた。


「まあいいや。じゃあもう一度言うから。この同居生活には、色々なメリットがあります。

 病気の時に少し心強くなって。

 家賃とかが少し浮いて。


 そして、三食ご飯がついてくる」


 速水の台詞を聞いた後、台所に可愛らしい弁当箱が二つ並んでいることに気がついた。


「約束のために、早く起きてくれたのか?」


「時々あんたって、恥ずかしくなることを恥ずかしげもなく言うよね」


 速水は、照れ臭そうに微笑んでいた。


「まあ、そういうことよ」


「そりゃあ……ありがとうございます」


 深々と頭を下げて、俺は立ち竦んだ。


「とりあえず座ってて。朝ご飯の準備するから」


 そう言ってようやく活動し出した俺は、速水の振る舞ってくれた朝ご飯を食べて、小さめの弁当箱を受け取って、家を出た。


 ふと、そういえば昨日まで自分がホームシックを患っていたことを思い出した。


 色々あって一夜明けた今、どういう訳か、どうにも落ち着いていられないと思ったその病魔は、すっかりと快復していた。



 どうしてだろうとか考える暇もなく、俺は楽しみにしていた朝練を始めるのだった。


   *   *   *


 我が野球部に所属する一年生は、初めのうちは上級生の練習中は球拾いをするというルールが存在した。

 年功序列というものはあまり好きではないが、この辺の年頃の男子というのは、一年毎に目を見張る成長を見せていくと、いつか本で読んだ。だからこそ、上級生と一年生での肉体能力の差は歴然で、まずは体作りから一年生は始めるというセオリーが存在し、故に球拾いや雑用等を積極的にこなすことになるのだった。案外、球拾いや雑用は体を動かすことに適していたのだ。


 そんなルール、セオリーがある我が野球部であったが、一年の内から上級生に混じり、ロングティーやノックを受けさせてもらえる、所謂特例が三人いた。


 一人は既に上級生をキリキリ舞に出来るストレートと変化球を持っていた前川。

 もう一人は、その前川のライバルで、フィジカルエリート、かつ大器の片鱗を見せている新井。



 そして、最後の一人。


 それは、俺。武田哲朗だった。




 正直に言おう。




 俺は、今俺が受けているこの特別待遇に、驚いている。

 確かに俺は、フリー打撃や守備練習で非凡の才能を見せている自覚はある。特に俺は、三度の飯より守備が好きだ。あの全身の筋肉を漏れなく余すことなく使い、相手打者、走者を射止めていく快感は、如何様にも替え難い。


 だが、それはあくまで練習の話だ。


 俺は、試合形式の本番でその才能を見せたことは、まだ一度だってないのだ。かつ、中学時代は無名もいいところ。

 

 そりゃあ最終的には一年の内からレギュラーを攫む自信はあったが、入部早々から手元にチャンスが転がり込んでくるとは、誰も思わないだろう。


 


 ……まあ、そんな驚きはさておいて。


「今日は紅白戦を行う」


 今日の練習、監督はどうやら、早速試合形式の練習を行う気らしかった。


 当然俺は、燃え上がった。



 俺は白組ショートで、打順は六番を与えられた。


「武田ぁ! 今日こそテメエを討ち取ったるからな!」


 喧しい前川は、紅組の先発。


 そして……。


「……ッチ」


 面白くなさそうに俺達を見ている新井は、白組サードの四番だった。


「自惚れるなよ。お前も前川も」


 どうも最近、この新井という男は機嫌が悪かった。


 ずっとライバルと思っていた前川が、最近俺に執心しているから。

 持っているスペックはとてつもないが、早速上級生を相手に壁にぶち当たっているから。


 多分、理由はそんなとこだろう。




 というか、こいつと前川の所属したシニアクラブの評価、ストップ安だよ。技術面だけでなく、精神面も鍛えて送り出せ。


「俺は自惚れたことはない。確固たる自信は持ってるけどな」


「はっ。その自信を持ってして、お前は六番という打順しか与えられねえんだよ。その点、俺は四番だ。打線の中核だ。これが俺達の評価の差だよ!」


 苛立つ新井は、まくし立てて言った。


 俺は、


「はんっ」


 鼻で笑った。


「生意気だぞ、ヒョロガリ!」


「お前、今の自分が価値のある選手だと思ってるのか?」


「は?」


「確かにあんたはバットに当てさえすれば、とてつもない打球を飛ばせる。だけど今のあんた、ただの扇風機じゃないか。守備も未熟。走塁も怠慢気味。

 今のあんたの評価は今後の期待値込みだ。端から見て、セルフィッシュな今のあんたに、選手としての価値は微塵も感じない」


「なんだと!?」


「こらお前ら、試合が始められないだろうがっ!」


 監督の怒声で、新井は渋々掴んでいた俺の胸ぐらから手を離した。


「いいか。覚えておけよ、新井」


 そんな新井に、俺は言い足りないから続けた。


「一番価値がある選手ってのは、将来性がある選手でも、カタログスペックが高い選手でもない。


 結果を残す選手なんだよ」


 そう言うと、新井以外の先輩含む部員も俺を見た。




「それを、この試合で俺が証明してやるよ。お前から見ればヒョロガリの百七十ニセンチの俺がな」

鈍感鬼メンタル主人公は好きなことをさせたら王道主人公って、はっきりわかんだね

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