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結果で示せばいいのである。

 四月六日。同居生活としては、六日目の今日。


 俺達はようやく高校へと入学を果たした。入学式の際の新入生代表挨拶は、速水が務めていた。曰く、代々この高校の新入生代表挨拶は成績優秀者が務めるそうで、いつか彼女が語ったように、彼女の頭がすこぶるいいことを、俺は再確認させられた。


 一年を過ごすクラスは、一年三組に決まった。どんな縁なのか、偶然にも速水と同じクラスだった。


 ただ、この日は速水とは特に会話なく一日が終了した。


 向こうとしたら、いきなり俺達が仲が良い様子を見せると、色々と周囲に勘繰られることを危惧したのかもわからない。


 そんなこんなで、俺は今、我が校の野球部の体験入部を行うため、グラウンドへ出向いていた。グラウンドは校舎の隣に設置されていて、何なら校舎からでも拝むことが出来た。


 坊主頭が集い始めた頃、監督が現れた。


 監督への挨拶の後、新入部員達の自己紹介が始まった。


「新井鉄平です。サードです。〇〇ボーイズ所属でした。よろしくお願いします」


 早速、有名シニアクラブのOBが出てきた。さすが名門校だなあと思った。


「前川弘。ピッチャー。〇〇ボーイズ所属でした。お願いしアス」


 ん。次の奴も同じシニアなのか。

 まあいいや。


 そんな感じで、どんどん新入部員達が自己紹介を行っていったが、誰も彼も有名シニア出身ばかりだ。さすが名門校。

 そして、俺の番がやってきた。



「武田哲郎です。ポジションはショート。中学までは軟式でした。よろしくお願いします」



 頭を下げると、周囲から稀有な視線で見られていることに気が付いた。


 新入生の挨拶が終わると、監督が俺を見ていることに気が付いた。


「武田。君、スポーツ特待生じゃないな。普通科か」


「はい」


「普通科の軟式出身、か。冷やかしのつもりか?」


「監督。その言い方は許せません。俺は本気で野球をするためにここに来ています。別にスポーツ特待生でなくとも、シニア出身でなくとも、野球部に入部出来ないわけじゃないですよね」


 監督の言い方にムッとして、俺は文句を口にした。


「それならいいんだ」


 監督は偉そうな口を聞く俺に、文句を言う気はないらしかった。あっさりと引き下がって拍子抜けしてしまった。


「今日は初日ということもあって、お前達の実力を確認させてもらいたい。というわけで、各選手に三打席のフリー打撃をしてもらう。今年のピッチャ-は三人いるから、一人六人。十八打席の投げてくれ」


 今年の新入部員は、計二十一名。内三人がピッチャーを務めて、残りはバッティング。か。

 


 やばい。すごい楽しそう。



「まずは前川、お前が投げろ」


「はい」


 前川とやらは元気よく返事をして、マウンドへと向かった。身長は結構でかい。高校生になりたてだというのに、百八十五センチくらいはありそうだ。


「いきなり前川かよ。俺当たりたくねえ」


 前川とやらに対する周囲の反応を見るに、彼はシニアでも結構有望なピッチャーだったのだろう。


「篠木。入れ」


「はい」


 そんな前川とやらの最初の相手は、篠木とやらだった。こちらも結構体は大きい。ただ、体は細い。一見すると、俊足巧打タイプに見えた。


 そんな篠木とやらは、前川との三打席の勝負で一度もバットにボールをかすらせることが出来なかった。


「あいつ、この前百三十九キロ出したらしいぜ」


 解説ありがとう、ガヤの誰か。

 そうか。高校生なりたてでそれだけの球速が出せるのか。そりゃあ凄い。


 次の打者も、その次も、その次も。

 見事に前川の前に凡退を続けた。バットに当てた打者は一人のみ。それでも、ボテボテのショートゴロ。


 確かに、前川のストレートは驚異的だと思った。だけど、端から見ているとそれよりも効果的に空振りを取っている球があることは一目瞭然だった。


 それは、スライダー。


 ファールグラウンドから見ているせいで変化量は細かくはわからないが、横滑りするタイプで、曲がり始めの位置もかなりバッター寄りに見える。かつ、毎回空振りする打者は腰を引かせているので、曲がりも相当大きいのだろう。


 あれを高校生になりたての選手が見極めるのは、中々に困難そうだった。


「次、新井!」


「よっしゃあ!」


 五人目の新井とやらは、ひときわ大きな声で叫んでいた。元気のある奴だな。


「前川、テメエの球今日こそ打ってやるよ」


 新井とやらは、前川にガンを飛ばしていた。

 そういえば、この新井と前川って、同じシニアの奴だったよな。


「んだとテメェ。今日もまともにバットにかすらせねえでやるよ。糞雑魚が」


 それにしてもこの二人、口が悪いことこの上ない。

 同じシニアなら、もっと仲良くすればいいのに。


 あ、同じシニアでライバルだから、互いに口が悪くなっているのか。


 納得した俺は、一人手を叩いていた。


「新井、打てるかなあ」


「当たれば打てんじゃね。あいつ、中学最後の試合で百二十メートル飛ばした奴だろ?」


 なるほど。この新井とやらも、スペックは前川と引けを取らないくらい高いのか。



「くそがあ!」


 ただ件の新井は、見事に三打席全て凡退。

 彼の悔しさ極まる叫び声は、校舎の向こうまで響いていた。


「へっ、雑魚が。二度とそのきたねえ面見せんじゃねえ」


「うるせえ。次はかっ飛ばしてやる。首洗って待っとけ」


 勝負の後も、二人はぴーひゃら騒がしかった。


「最後、武田」


「……ああ、はい」


 そんな二人の喧しい雑音のせいで、俺は反応悪く返事をした。


「武田。シャキッとしろ、シャキッと」


 おかげで、初日から監督に怒られてしまった。

 まあ、何でもいいが。


「ちょっと、監督」


 屈伸運動など、軽めのアップをしている最中、前川が文句ありげな声で監督を呼んでいた。


「なんだ?」


「なんで、俺にあの軟式野郎を当てるんですか」


「意図はない。不満か?」


「不満です」


 前川ははっきりと口にした。

 俺は構わず、アップを続けた。


「監督。これは俺達の実力を見るためのフリー打撃ですよね。だったら、この中でも上手い俺に一番下手な奴を当てるって、そりゃおかしいでしょう。俺の評価が真っ当にならないかもしれないじゃないか」


 前川の文句に、監督はため息を吐いていた。


「確かに、お前と新井の実力が今年の新入生の中でも現段階では特筆していることは認める。だが、異論は認めん」

 

「なんで」


「俺が監督だからだ。そもそも一番下手だと思うなら、三打席九球でさっさと片づければいい。違うか」


「……はーい」


「終わりました?」


 ヘルメットを被りながら、俺は尋ねた。


「ああ、打席に入れ」


「はい」



 右打席に入って、俺はスパイクの裏で地面を固めた。


 俺に向けられる周囲の視線は、どこか冷ややかだった。理由は言わずもがな。


 今この場で、俺がこいつを打てると思っている奴は一人もいないだろう。多分、ああまで言って前川を納得させた監督も。




 前川は、ワインドアップからオーバースローで投げるオーソドックスなフォームだった。

 

 初球のストレート。二球目のスライダー。


 俺はどちらも見逃した。どちらもストライクで、カウントはノーボールツーストライク。


 もうまもなく、前川は三球目を投じようとしていた。




 ……下手だと言われたことに文句はなかった。


 有名シニア出身の連中から見れば、俺みたいな名も知らぬ中学軟式出を評価しうる指標はなかったから。


 だから、どんな文句だって甘んじて受けいれる気だった。言い返す気はなかった。




 カキィン!


 

 簡単なことだから。



 文句を言い返すよりも先に。

 ガンつけるより先に。



 結果を示す。


 それだけで、周囲の視線は変わる。



 俺は、それを知っていたから。


 

 打球は、前川の頭上をライナー性で超えていった。センター前ヒットだろう。


「ありゃ、振り遅れた」


 しかし、俺的にはこの当たりの手ごたえはイマイチだった。個人的には、レフトオーバーの大飛球になると思っていた。


 思ったよりも、前川のストレートは伸びてきていたのだ。それで、俺は振り遅れてしまったのだ。



 やはり有名シニア出身。一筋縄ではいかない。なんと面白いことか。


「さ、二打席目、行こうか」


 楽しさのあまり、俺は笑っていた。


 そんな俺を見て、前川は何が起きたか理解できないという風に目を丸めていた。

やきう回。あと一話書くよ

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