満身創痍
なろうコン二次突破致しました!
いつもありがとうございます。
5ヶ月サボったが、なんか書かないといけないのかなって……。
五、六番と連続アウトに討ち取って、迎えた七回表の攻撃。
打順は五番の平泉先輩からだった。
六回表の攻撃、まるで憑き物でも落ちたかのようなピンチからの三者三振は、好投手藤本の潜在能力を垣間見せるようなピッチングだった。
勢いそのままに、藤本は今にも風斬り音が聞こえそうな、まさに唸る剛球を投げ込んできていた。
ベンチから見るグラウンドは、さっきまでは一切気にならなかったのに、湯気のような熱気だった雰囲気を見せていた。いつもなら見えないか気にしない光景が、やけに瞼の裏に残った。
本日俺達の試合は第二試合、つまりは十一時頃のプレイボールとなった。
そして、試合も終盤。今は時刻にして、十三時を迎えていた。
夏のこの時間。
恐らく一年の内でも最も暑いこの時間。
剛球唸らせる藤本ながら、一つの付け入る隙を俺は考えついていた。
「入江さん、ちょっといいか?」
日陰のベンチ内も、蒸せるような暑さだった。
それでもチームの勝利のため、帽子を被り制服に身を包んでいる入江さんを、俺は呼び止めた。
「て、哲朗くん!?」
真剣な眼差しで隣に座ると、大きな声で飛び退かれた。
途端、ベンチの視線を一手に集めた。何故そんなに俺達に周囲が注目しているかはわからないが、俺は殺気立つ雰囲気に気圧され、さっさと用件を済ませようと思った。
「ど、どうしたんですか……? もしかして、頭痛みだしたとか?」
「ん? ああ、違う違う。頭はすこぶる調子良い。ちょっと調子良すぎるくらいだ」
「……それはそれで危ないのでは?」
「大丈夫だって。どんな状態だって、必ず打ってみせるから」
心配するなと微笑むが、入江さんはその件は関係ないと言いたげに、眉をひそめて困った顔をしていた。何に困っているのか見当は付かなかったが、そろそろ本題に入りたいと俺は思っていた。
「聞きたいことがある」
真剣な面持ちで、俺は入江さんに向かい直した。
「はい。何でしょう?」
その真剣な面持ちをもって、ようやく入江さんは俺の質問に取り合ってくれる気になったようだった。
「藤本の球数、今いくつだ?」
「……ああ」
なるほど、と言いたげに入江さんは手元にあったスコアブックを指でなぞっていった。
関係ない話だが、スコアブックの字、入江さんは一際綺麗だな。誰でも読める。誰でもわかる。そういう些細な気遣いと言おうか、その辺の気配り具合はさすがの一言だった。
「……えぇと」
そろそろ数え終わった頃、丁度平泉先輩がファールを打っていた。
金属バットとボールの擦れた甲高い音が響いた後、その打球音は我が校の吹奏楽部の大音量の演奏にかき消された。
「今ので丁度、百二十五球ですね」
やはり。
序盤からピンチを背負ったり、フォアボール過多だったり、今日の藤本の球数はかなり多めだ。
馬力のある投手ではある、藤本は。
羨ましいくらいの恵まれた体格。
野球をするにあたり特筆しているセンス。
この先奴は、世間の注目そのままに超プロ級高校生として脚光を浴びていくことだろう。
でも、奴はまだ一年生だし、この炎天下だ。
そろそろ、頃合いだろう。
「フォアボール」
パフォーマンスが乱れる頃合いだろう。
……少しだけ寂しくもあった。
満身創痍な投手から……藤本から打っても、微塵も面白くなかったから。
でも、どんな状況だろうと勝負事で慢心も手加減も俺はしない。
乱れ始めた藤本は、苦悶の表情で球を放っていた。
ボール先行。
それでも、懸命にアウトカウントを稼いでいたが……。
九番の前川にもフォアボール。
これで、ツーアウト満塁。
被っていたヘルメットを被り直して、バットの握りを確かめながら打席へと向かった。
湧き上がっていた感情が、静まり始めていた。
折角の好投手との対決。
それがこんな形で水を差されるだなんて、微塵も面白くもない。
勿論、手は抜かない。
でも……。
甲子園の黄土色の土を見ながら歩いていた。
白いラインパウダーに差し掛かり、気の抜けかかった感情を沸かせるため、顔を上げた。
広い甲子園球場。
観客入り乱れる客席。
湧くベース周り。
そして、一際高いマウンドに立つ巨人。
誰もが羨む長い手足。恵まれた体格。
それを持つ満身創痍のあの男は……笑っていた。
まるで、待ち望んでいたように。
俺との、油断すれば窒息してしまいそうなくらいの緊迫したこの場面を待ち望んでいたかのように。
藤本は、笑っていた。
感情が湧き上がっていた。
気が抜けそうなどと一度でも思ったことを謝罪したくて仕方なかった。
こいつは、本気だ。
本気で俺を抑え込もうとしている。
二度もデッドボールを与えて、自分だってしんどいって言うのに。
奴は、持てる全てで俺を抑え込もうとしているのだ。
いつものルーティンをし、打席に入った。
ヘルメットのツバを数度触り、俺はバットを構えた。
「来いっ!」
藤本は、長い左足を大きく上げてワインドアップ。
満を持して、放った。




