修正する
「武田、腰引けてたぞ」
ベンチに戻ると、客席から鳴り響く管楽器に負けない声で前川に言われた。
「ああ、ビビってた。また死球食らうんじゃないかって」
「……ふうん」
前川は少しだけ驚いた顔をしていた。
「修正する」
「……ふんっ」
今度はつまらなそうに鼻を鳴らした。どうしたというのだろう。
三回表、ツーアウトから新井が七球粘って四球で出塁。しかし後続は続かず、チェンジとなった。
三回裏、下位打線相手に大貫先輩は三度三者凡退。ここまでパーフェクトピッチングとなる。
四回表、藤本も三者凡退。
そうして迎えた四回表。
打席には先頭打者の尾白が入った。
これで向こうも二巡目。大貫先輩の球筋も、打席、ベンチ、ネクストから見てきてわかってきた頃合い。
俺は気合を入れて、ショートの定位置に立っていた。
大貫先輩はいつも通りののらりくらりのピッチングを心がけているように見えた。ピッチトンネルを意識した配球を見せて、カウントツーボールツーストライクの平行カウントに持ち込んだ。
そこからの五球目だった。
「ライトッ!」
尾白の放った打球は、一塁線を破る痛打となった。見事な引っ張りだった。
俊足を飛ばして、ランナー二塁。
初めてのセットポジションのピッチングに制球定まらず、二番へは四球。
そして打席には、強打者森本を迎えた。
森本相手に大貫先輩はなんとかカウントを整えた。フルカウントからの七球目だった。
ストライクからボールになる完璧なスプリットだった。
森本も思わず手を出してしまうような、理想的なボール。
しかし、そこで抑えられないのが彼の凄いところなのだろう。目一杯にバットを伸ばして、マウンド上でバウンドしそうなボールを森本は救い上げた。
セカンドの吉村先輩の頭上を越えた打球はポテンヒットになり、二塁ランナーは帰還。
一巡目を完璧に抑えた大貫先輩から点を取ったことで、そこから相手打線に火が点いた。ヒット四本。二四球。打者一巡の猛攻を浴びた大貫先輩は五失点を喫した。
三十分近い猛攻を終えた後、ベンチに戻った疲弊している大貫先輩に監督が近寄った。どうやら大貫先輩はこの回で代わるらしい。前川の姿がないから、多分ブルペンで肩を温めに行っているのだろう。
二対五。
リードから一変、逆転を許してしまった。このまま負けるわけにもいかない。しかし、藤本は明らかに立ち直りつつあることは明白だった。
「とにかくランナーを出せ。セットポジションの方がボールの威力もないしコントロールも荒くなる」
監督の言葉に頷いて、五回表を迎えるも、再び藤本に三者凡退に打ち取られた。
守備に向かう手前、ナインの顔に優勝候補を相手にしていることをふと思い出したような、そんな重苦しい空気が漂っていることに俺は気付いた。
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