表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/107

痛いやつ

節目の百話+二十万字

 翌日、二試合目に試合を控えた俺達は、試合前のノック練習に明け暮れていた。まもなく始まる優勝校と東京地区の有名校との試合に、この前の試合にも勝るとも……いいや、かなり勝るギャラリーが押し寄せていた。


 夏のこの暑い時期に、ご苦労なこった。

 まあ個人的には、たくさんの観衆のいる舞台で試合が出来ることへの喜びしか、今は感じてはいなかった。


 不遇に終わった中学時代。

 あれから結構な時間が経った気がするが……実はまだ数か月しか経過していないんだよな。


 それにしては、濃密な数か月を送っていた気がする。


 父と母との別れ。

 強豪野球部への入部。

 そして、お人好しなあの人との同居。

 

 色々あって、忘れられなくて、かけがえのない数か月だったと心から思える。


 いつか、誰かからもらったラブレターに書かれていた。

 東東京大会決勝の、及川のホームランは、俺にとって、俺の集大成に見えた、と。


 あそこが集大成だったはずがない、と俺は思っていた。俺は将来プロになるし、この前、そしてこれから甲子園で、さらなる強敵と凌ぎを削るから。


 だから、俺はまだまだこれからの、若輩者だと思っていた。


 だけど、そうじゃない。


 若輩者であることは変わらない。だけど、ここが集大成になる可能性は、思えば多少はあるんだよな。


 人生何があるかわからない。

 見ず知らずの同級生と、突然同居生活を始めなければならないくらい、この俺の人生は何があるかわからなかったし、これからだってそうなのだろう。


 何があるかわからないこの人生で。


 いつ、集大成の舞台が訪れるかわからないこの人生で。




 最善を尽くさないのは、きっと微塵も面白くないのだろう。




 だから、どこか動きの堅いナインに対して、俺はいつも通りを心がけてノック練習を受けた。ノック練習の終盤、相手ベンチにひと際大きな選手が見えた。


 あれが噂の藤本か。


 同級生にして、前川より速い一五〇キロを投じる投手で、身長もでかい。将来のプロ筆頭株。


 燃えてきた。


 あんな好投手を打つ舞台が目の前にあって、燃えてこない方がおかしいだろう。

 

 試合前のミーティング、俺は一番ショートとして先発出場を果たすことが決定した。先発投手は、大貫先輩。前川の疲労を考慮した形だろう。


「最後に一つ」


 監督は、全国大会に入ってからいやに饒舌だった。今日もメンバー発表後、俺達の顔を見回して話し出した。


「さっきのノック、お前ら随分と動きが堅かったぞ。……一部を除いて」


 それは俺もそうだと思っていた。


「お前達、何を堅くなる必要があるか……言ってみろ。相手が強豪だからか? 負けた時、惨めだからか? じゃあ聞くが、これまでお前達が負かしてきた相手は強豪じゃなかったのか? 惨めだったのか?

 違うだろう?

 全力で向かっていけ、競り合った末の結果なら、どんな結果でだって賞賛だ!


 もし全力で行ってボロ負けだったのなら、次の舞台で借りを返せ!

 高校野球以外でも、どんな形でだって借りは返せる。でもそうやって吹っ切るには、今日全力を尽くさないとそうとすら思えないぞ!

 負け犬のまま終わりたくないのなら、全力でぶつかって来い!」


「はい」


 監督のおかげか、部員達の目に光が戻った気がした。


 まもなく、向こうの全体練習も終わり、試合開始へのカウントダウンが始まった。

 ベンチ前に集まった俺達は、怒号を発してホームベース周辺に走り寄った。


 そして、相手校と礼をして、互いの健闘を祈り合った。


 こちらの先攻め。

 一番打者の俺は、ヘルメットを被って打席に向かった。


 投球練習風景を見ていたが、やはりこの藤本という投手、相当にインステップして投げてくる。


 こりゃあ面白い。


「プレイボール!」


 嬉々として立った打席。


 どこか恐怖を覚えさせるサイレンが鳴り響いた直後の初球。






「ぐえ」





 まさかのデッドボールに、思わず俺の声から悲鳴にも似た情けない声が漏れた。

ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ