八十九話 夢
戦斧は振り下ろされた。
――刹那。
闇夜に溶け込んでいたブルーケがチョーカーの出力を上げて姿を現した。
アバートとモートレを助ける。
その一心での出力全開は脳に記憶を焼き付ける。
父親の声が聞こえた。
「倅が生まれたんですよ」
相変わらずの二枚舌。
「元気一杯の男の子。いやー女の子じゃなくて良かった」
アタシを偽る為の二枚舌。
出生の事実と記録を偽る。
存在を偽る。
自分自身の記憶さえ偽る。
「夢。よく聞きなさい」
それは娘であるアタシを偽り続け……守る為だった。
「これからは男として生きるんだ」
偽り続けた末にそれは父親自身の中で真実と相違なくなった。
「男なら強く生きるんだ」
何が真実で何が偽りか判別がつかなくなり、狂った父親。
それに耐えきれなくなった母親。
……アタシは父を守る為に母に捨てられた。
父の正常を取り戻す為に……母は愛した父を取り戻す為にアタシを捨てた。
その事実を知った今、母を恨もうとは思わない。
アタシが同じ立場でもそうしたかもしれない。
責めることはしない。
だがアタシの本質まで変わってしまった事に気付いてくれなかったことだけは……恨んでしまうよ。
嘘を吐くことを悪だと思わない。
特に誰かを守る為であれば進んで嘘を吐く。
自分でさえ偽る……【人の為】と書いて【偽る】。だから仕方がない……と耳触りの良い言葉を並べさえする。
そしてアタシは自分の存在さえも偽れるようになってしまった。
「夢ではない……現実ならば俺を裁けない」
ブルーケの口から言葉が漏れる。
誰かの叱責があれば本質は戻っていたかもしれないのに。
と、笑みを浮かべて全てを偽り始めた。
強烈な轟音と衝撃が部屋を埋める。
「ブルーケか……厄介な。それにしてもアバートは手強いな」
土煙が晴れるとそこには誰もいなかった。
こんにちは、
下野枯葉です。
夢。
睡眠中にみられる現象。
現から切り離された思考に流れ込む情報。
五感を伴い願望を写す。
現実との境界を曖昧にし、自らを騙す。
どうして俺を裁かないんだ?
そんな現実を受け入れざるを得ない。
そう……誰かが語り掛けてきます。
そこは現実だよ。
夢。
人の為に偽り、騙し、陥れるんだ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




