八十七話 火垂火
圧倒的な膂力のアバートの攻撃を流して細かな打撃を刻む。
しかし、小さな攻撃はアバートへの決定打とは成り得ず届きもしない。
より速く、より正確な攻防の切り替えと暴力的な思考・力は、最狂の名を冠するアバートの特筆すべき事項の一端でしかないが、それだけで十分とも言える。
競り合う状況。
『ロボットは他に回せ! ヒェトラはアバートが対処する』
的確に判断し、大淀は伊勢に指示を追加する。
「厄介だな」
盾のみでアバートと戦わなければならず、疲れを滲ませるヒェトラはチョーカーを操作する。
「ヒェトラ……どうして?」
「………………決められていたことだ」
アバートからの質問に対し、穏やかな笑みを返す。
どうしようもなくて、やむを得ない事情があったと言わんばかりの声がアバートの心を揺らす。
瞬間、出力を上げ、距離を詰めて超接近戦を展開し始めた。
『モートレ、教えてあげよう。この国、この世界をあるべき姿に戻す……AIも人間も初期化するんだ。それが私達の望みであり……成すべきことだ』
暁啓は愛娘との再会を祝う事無く、目下の状況に対しての答えのみを放つ。
「――――っ」
父がすぐそこにいるのに近づけないという葛藤。
『伊勢、君の技術と思考は危険すぎる。この世界……この星にとって人間は新参者と言って差し支えないかもしれないが、それでも霊長と呼ぶに相応しく、統べていると断言して良いだろう。……で、あるにも拘らず君はそれを踏み躙ってまで、自らを成長させようとさせるのかい? 可笑しな話だ。君は人間が創り出したものだろう? 弁えろ――――まずは君を封じる』
同時に轟音と振動。
衛星軌道上からの攻撃だ。
伊勢の街の機能を封じる様に爆撃が降り注ぐ。
迎撃兵器は大和の電子的な攻撃に寄り従来の性能を発揮できずにいた。
爆撃で揺れる中、伊勢の核を突き刺し、圧し潰すように金属製の円柱が落下した。
直径およそ一・五メートル。
隙を見て伊勢湾に停泊中の船舶から放たれたミサイル型の支援物資だ。
今回は傘を展開せず、落下による破壊も目的の一つとされていた。
落下の衝撃でモートレは床を転がり、アバートも姿勢を低くする。
ヒェトラは落下地点を知っていた為、盾を構えて動じることなく円柱を眺めた。
舞う土煙。
霞む視界。
朧気に光る円柱の中間部分にある扉が開き、透明な液体が零れる。
ヒェトラは躊躇う事無く円柱の内側に入り込んだ。
予想していない豪風に構えて動けなかったアバートはヒェトラがいつ現れてもいいように刀を構え直す。
「……」
外から絶えず爆撃の音が響く。
その音がアバートの精神を著しく擦り減らす。
「アバート……本気で行くぞ――」
ヒェトラの声が土煙の中から聞こえる。
青白い光が四つ浮かび上がった。
ヒェトラは両腕に甲冑を纏う。
手の甲には青白い光源。
そして両肩から一定の距離を離して空中に先述の三周り以上も大きい鎧籠手。
こちらにも同じく光源。
空中の鎧籠手には大きな戦斧が握られている。
「――火垂火」
C2により開発された浮揚型外甲冑【火垂火】。
腕に取り付けた甲冑と空中の籠手の相対位置を固定。
腕の甲冑の動きに合わせて鎧籠手が動くことにより、近接戦闘における質量と機動力を確保した装備。
薙ぐように振るった右腕に合わせて戦斧が宙を薙ぐ。
サーバー群の一部が吹き飛んだ瞬間にアバートは笑みを浮かべた。
「火垂火とはなァ! 火力が足りねぇなァ!」
「来い! 骨の髄まで痺れさせてやるよ!」
こんにちは、
下野枯葉です。
いつの間にか彼岸が過ぎ、今年も終わろうとしています。
10月からなんて加速する毎日です。
さて、火垂火です。
読みは【ほたるび】
宙に浮く武器はロマンですね。
この武器を描く為に様々なコンテンツを参考にしております。
パクリっぽくなってしまうかもしれませんが、リスペクトです。
真にオリジナルな作品なんてこの世に存在しませんからね。
私達は何かを創り出す前に、何かしらの影響を受けています。
言い訳がましいなぁ。
でも、この火垂火は私が絶頂寸前まで気持ちいいと感じながら
考え出した武器です。
ヒェトラ……君の気持ちは響いてきたよ。
さて、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




