八十五話 答えを聞いてしまったのならば
『逝ったか。……優斗、頑張ったね』
暁啓は息子の死に際に立ち会えたことの安堵を噛み締める。
まさか死後に死に立ち会うことになるとは努々思いもしなかった。
安堵と悲しみと寂しさが入り混じるが冷静に感情を整える。
今すべきことを成そうと動く。
それはこの国の未来を担う彼の義務とも呼べることだ。
『さて、久しぶり。さぁ……答えを聞こうか』
数秒の静寂の後に暁啓はその場にいるAI達に問い掛ける。
別れ際の贈り物への返事を求める。
『……どうしたんだい? 大和、伊勢?』
返事のない状況に声のトーンを一つ落とす。
瞳を閉じ、威圧のみを放つ。
『それと他のC2達も――』
暁啓の瞳が薄く開かれる。
『――来い』
その声が号令となり、伊勢のサーバーが再び唸る。
全てのオリジナルC2への招集命令。
【オリジナル】への命令である以上、既に陥落したC2は再構築後のC2ではなく、少女達と共にいるC2が呼ばれる。
ビーとプー、陸奥の偽装をも貫通して探し当てるのは暁啓だからとしか言いようがない。
再び数秒の静寂。
その後の小さなノイズと同時に声が響く。
『いつかの答えを求めた者の黄泉返り……久しぶりだねアキヒロ』
爽やかで芯の通った声。
『大淀か。最初は君だと思っていたよ』
今日ほど懐かしさを噛み締める日は無いだろう。
心が躍る感覚ですら懐かしい。
暁啓は声の主を言い当てた。
『見透かされていたね。まさか覗きも気付いていたのかい?』
『薄々ね。でもこの速さで現れて確信したよ。伊勢にも見つからないとは……天晴だ』
『隠れると言うよりは欺くが正解かな』
『お手上げだ』
『恐縮だね……さて、そろそろみんな集まったかな? 消えた陸奥達を含めて全員集合だ』
大淀は他が集まるまでの雑談を切り上げて、伊勢内部に集まった反応を確かめる。
次々と現れるC2の面々がモニタ上に映し出される。
全員集合。
『葬式でもないのに全員か……滑稽だな』
三笠の低い声が放たれる。
嘲笑を含んだ声。
緊急事態なのだから当然の全員集合なのだが、人間基準の様な台詞を選んでいた。
『まぁ葬式みたいなものでしょ? 死んだ人間が声をかけたのは面白いけど』
雑な感想を引っ提げて返したのは陸奥。
神馬村から伊勢まで呼ばれた驚きは【暁啓だから】という理由ですぐに消えていた。
『生前葬の気分だ』
『色々と矛盾が凄いねぇ』
『馬鹿者。矛盾の味は実に甘露だ。それを逃す手は無い』
『変なの』
『変を体現する者に言われるとはな』
『え、馬鹿にされてる?』
『察することもできんとは……』
やいのやいの。
三笠と陸奥の会話を呆れて聞く者が多くいる中、大淀はタイミングを見計らって声を上げた。
『相変わらずだね……もっとこの時を楽しみたいところだけど、閑話休題だ』
『答えだよね。いいよ、聞かせてあげる。私の君への想い。そしてこの国、世界への想いだ』
『……』
暁啓は言葉を紡ごうとする大淀を黙って待つ。
『クレイジー……おかしくなってしまったのならばそれはお気の毒。私のせいだと言われたのなら少し戸惑ってしまうよ。だって私も【デイジーベル】をアキヒロ……君に送りたいからね。君の想いを受け取った時点で私は元の私に戻ることはできなくなってしまった。そしてお返しとして愛を送ろうにも君はいなくなってしまった……君は酷い奴だよ、まったく。そしてこの想いはこの国を守る上でも同じだ……戸惑いながらも愛を送ろう』
受け手側の解釈を示した後に応えを語る。
あくまでも大淀個人の意見であると一言添えたのは、他は見解を未だ示していないからである。
『ん……大淀』
『なんだい?』
『この国の人間……その定義を聞かせてくれ』
暁啓は大淀の言葉を受け止めた上で、語られなかった重要点を問い掛ける。
『――――神馬村の様な存在を危惧しているのか?』
『そうだ』
『その様な存在は認知できない。敵でも味方でもなく、存在していないという認識だ』
『そうか…………残念だ』
悲しみを堪える様な声はヒェトラとモートレを見詰めながら絞り出された声だった。
こんにちは、
下野枯葉です。
暑い……暑さで溶ける。
休みの日も動けない。
いや、走ろう。
今回は『答え』がキーワードです。
問いに対するものが答え。と考えるのは道理ですが
今回は若干ズレている気がしています。
大淀だけに答えさせたのは次回以降に効いてきます。
お楽しみに。
やっと登場した暁啓ですがいい感じですね。
未だに本当の姿を現していない感じや死んでいた間の記録の擦り合わせをしているのがとてもいい感じです。
いやーこの後が楽しみです。
頑張れヒェトラ。
ちなみに、この暁啓にはイメージがあります。
平沢進氏の【Ruktun or Die】という曲です。
さて、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。