八十四話 心が報われたのならば
伊勢中心部
『……助けてあげるよ、伊勢』
白衣姿の暁啓は優しい笑みと一緒に、伊勢への言葉を一つ。
同時にヒェトラとモートレの涙の意味が大きく変わってしまった。
『と、言いたいけど』
一転。
表情を引き結んだ暁啓。
息を呑む緊張感がその場に広がり、暁啓の存在の大きさを示す。
やけに喉が渇く。
湿度も温度も変わらない部屋だが、ヒェトラは背筋に流れる冷や汗に不快感を覚え、唇までに及ぶ渇きに苦しむ。
『伊勢の情報だけでは不十分だね。大和を呼ぶよ』
その言葉の直後、サーバー群が更に一段階唸り声を大きくした。
『いくらアキヒロとはいえ大和を呼ぶことは許容でき――』
『――急を要する。強制執行だ』
伊勢の抵抗も虚しく、権限は全て暁啓に移行する。
それは暁啓のみの特権。
あらゆる事態を想定し、C2システムを掌握する。
『CODE88:支配者の宝へ寿げ』
命令が一つ。
『声帯認証完了。限定的な外部接続を許可』
『来い。大和』
命令がもう一つ。
『……アキヒロ。久しぶり』
呼び声に従い大和は伊勢への通信を即座に繋ぐ。
喜び。
名前を呼ばれ、必要とされただけでこれだけの感情が溢れる。
『早速で申し訳ないが、君の記録も見せてもらうよ』
『承知した。空白を埋めておくれ……そして村のことをよく知って欲しい』
大和は一つの記録を取り出し暁啓に渡した。
圧縮・移動・解凍のプロセスは瞬く間に行われ、情報は全て共有された。
『ん……そうか。全て理解したよ――』
『――優斗』
名前を紡いだ。
それはファントムの本当の名前。
その命と共に消された名前。
「……は、い」
事切れる寸前のファントムはその声に呼ばれ、全てを思い出す。
あの日の出会い。
育てられた日々。
愛を受け取った日々。
そして戦場に向かったあの日と――――暁啓を殺したあの日。
全ての記憶、記録がふたりの間に咲いた。
『優斗が息子で良かった』
「俺も……貴方が父で…………良かっ……た――」
最期を迎えたファントムは振り絞り涙を流した。
そして全てが報われ天へと昇った。
こんにちは、
下野枯葉です。
三カ月ぶりの投稿となり悔しいです。
やっと動けます。
さて、心が報われたのならば。
です。
私自身、報われた経験を少ないながらもあるのでこのタイトルにしました。
そう。
報われた瞬間……人はどんな感情を持つのでしょうか?
解放感と似たものが溢れると思います。
ファントムは何を感じたのでしょう?
良い方向で何かを得たのなら幸いです。
でも、私は悲しくて堪りませんよ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




