七十八話 AIと感情
伊勢は散発的に起こる電子的な攻撃に対し黙々と対処を始めた。
あらゆる監視システムを起動し、侵入に対して警戒を強める。
見つからない外敵。
ただ試験的に行われた電子的攻撃なのだろうか?
先日行われた松島に対する囮攻撃のようなものなのだろうか?
あらゆる可能性を検討して完全に否定できるまで行動を続ける。
「流石は暁啓の子供達。小賢しい」
目的の掴めない攻撃。
他のC2への情報共有を並行しつつ自陣の防衛も強化し始める。
伊勢の中心を守るのは当然だが、都市に点在する重要施設の全てを守る為の策も考えなければならない。
どれかを捨てる選択も勿論考えられるが……捨て難い。
「ならば手は一つ」
逡巡の後――決断。
伊勢はあらゆる選択肢を短時間で読み込み、最善と思える流れを掴む。
それは中心への道を作る事。
敵の位置さえ知ることが出来れば対処できると判断し、誘い出す一手だ。
ヒェトラは地図情報と敵の位置を照らし合わせて道を探る。
数通りの道を見つけて違和感を一つ。
「誘われているな」
短い言葉に他の三人はそれぞれ反応を示す。
伊勢に対する不安や怒り、恐怖が満ちる。
底の見えない大穴を覗いた時の心のざわつきがここにある。
人の真似をして街を動かすソレの思惑の一端を知った瞬間にヒェトラだけは好奇心に震えていた。
「手間が省けて丁度いい。乗ってやろうじゃないか」
地図を閉じたヒェトラは伊勢のいる方向に視線を向けて口角を大きく上げた。
その意思を読み取り、進む準備を整える。
猪突猛進。
他の一切を無視した進行は伊勢の掌の上だった。
道を開いた瞬間にその道の上に乗った敵に対し伊勢もまた違和感を覚えていた。
伊勢本体のある敷地を目前に四人は足を止めた。
「さぁ時間だ」
ヒェトラは目を薄く開いた。
彼の神社の下宮と内宮の間。
あまりに無機質な外観が、風景から切り離されたように浮いて見える。
最恐の本拠地。
ヒェトラの声に合わせ侵入した瞬間に空気の異質さに四人は震えた。
直感で理解した。
この施設は人間を迎え入れる準備をしていない。
建物の構造も配置も何もかもが人の為に作られていなかったからだ。
息を呑んだ刹那――
「敵襲!」
――自立型ロボットが銃を構えながら現れた。
二足歩行型は銃を持っているとは思えない程速い速度で駆け寄り、その前方をキャタピラと大きな装甲板を前面に構えた車両が歩行型を守るように列を組む。
即座にチョーカーを起動し、狙いを定める。
ヒェトラから伝わった作戦は単純であったが、緊急時の作戦としては正しかった。
キャタピラを破壊し、装甲板を互いの盾として使う。
アバートとヒェトラは駆け出し、モートレ、ブルーケ横に広がり前方ふたりを避けて攻撃開始。
側面攻撃に対して無力なキャタピラは一台が崩れるとドミノ倒しのように隣の車両に衝突し、動きを鈍らせる。
その隙は大きな隙となる。
アバートは構えた盾で銃弾を防ぎつつ車両に衝突した。
奇襲攻撃に対して少人数の少女達が取る最善手は場を混乱状態にすること。
人間相手であればとても有効的である作戦だ。
機械、AI相手にどれだけ有効であるか不安もあったが、結果は成功だ。
それぞれのAIはそれぞれのカメラで捉えた状況から判断をするので、混乱状態になると処理すべき情報が増えるからだ。
装甲板を構えた車両はそのバランスの悪さから大きな衝撃で倒れる。
底面は他と比べ装甲が甘い。
見逃さずグレネードを投げたヒェトラ。
それを察したアバートは更に奥へ走り、爆発を避けつつ歩行型を相手に変える。
時間はあまりかからなかった。
こんなものかと肩透かしを食らった気分の中、その声は響いた。
『ようこそ暁啓の子供達。暁啓ならここにいる、早く会いに来い。その命が散る前に』
伊勢からの挑発とも捉えられる声は、伊勢とは思えない程、喜びの感情を合わせていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
身の周りで喜ばしいことがありました。
祝福です。
彼にはその身から零れ落ちる程の幸せがあって欲しいものです。
何せ、私にとって良い人間でしたから。
いいえ、私達にとってですけどね。
おめでとう。
さて、AIと感情です。
一昔前から話題となるものです。
感情の様に表れているだけであって、それは似て非なるもの。
その考えには概ね賛同します。
しかし、人間の感情も同じではないのでしょうか?
感情の定義から話すと長くなりますので表面だけを。
何かの事象に対して反応を示した場合、それは感情なのでしょうか?
反射的に行動した場合、それには感情は無いのでしょうか?
難しく考えないでください。
何かしらの行動、誰かに対する行動……機械的であっても誰かの為であるならそれは感情のようなものではないのでしょうか?
相手を伴った言動は全て感情・感情のようなものと考えていいと思います。
長くなりましたね。
伊勢にも感情があると思ってください。
面白いですよ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




