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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
表裏を持った瘋癲
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七十六話 歴史の転換点をもう一度

 再びオートバイに跨り、田んぼの中を駆けるモートレは頭の中で考えを巡らせる。

 ここで起きてしまった事を忘れてしまいたい気持ちをグッと堪えながらゆっくり進む。

 三速でゆっくりと進む。

 父に会えるのだろうか?

 伊勢を相手に勝てるのか?

 そもそも勝つ意味があるのか?

 堂々巡り。

「おーい」

 水田の側で草刈りをしていた老人が大きな声で手を振りながらモートレを呼んだ。

 それに気付いたモートレはその近くでオートバイを停めて、エンジンを切った。

 アフターファイアが一度ボンと鳴る。

 声の主は高久だった。

「……懐かしい音が聞こえたらなぁ、モートレだったとはなぁ」

 話しながら高久はバイクを舐めるように眺めた。

「こんにちは高久さん。何かありましたか?」

 バイクスタンドを降ろし安定して駐車できていることを確認したモートレは高久に近付こうとした……が、高久の方から近付いてきた。

 モートレに向かうというよりはオートバイに向かう歩みだった。

「このバイクだよ……アフターファイアが鳴ってるな。後でプラグでも見てみるか」

「あー……この音ですか。お願いします」

 子供のようにオートバイを優しく撫でる高久は軽微な異常を察して提案を一つ。

 モートレはその詳細を理解できなかったが頬を掻きながら頭を下げた。

「……実はこのバイクは私が叔父から譲ってもらったものなんだよ」

「あっ、そうなんですね」

「まさかこの時代まで乗ってもらえるとはね……幸せだろうさ」

「何年前のバイクなんですか?」

「んー……ワシも詳しくは分かっていないんだ。親父の紹介で叔父が安く買った事だけは聞いているんだけどね」

「よく今まで乗れましたね」

 高久の年齢を思い出しながら六十年以上は経っていることを推察した。

 その上で物理的な限界を考えて驚きを一つ。

「シシシ……叔父が純正部品を大量に買いおいてくれたんだよ」

「だとしてもよく……」

 感心しつつもう一度高久とオートバイを見詰めた。

 アクセルを捻りながらキャブレターの動きを見る高久に笑顔と憂いが見える。

「乗り心地はどうだい?」

「少々面倒な部分もありますが、良い子ですよ」

「なら良かったよ…………それよりどこに行っていたんだい?」

 オートバイの話もそこそこに高久は和やかな空気を変える。

「高久さんはこの先に何があるか知ってますか?」

「……まぁね。ヒェトラが出かけているのも関係しているのならおおよその見当はつくよ」

 空を見上げる。

 高久の瞳には空だけが映り、溜め息が出てしまう。

 この村の最古参である高久は村のことならなんでも知っている。

 だからこそ全てを推察できてしまうのだ。

「次の目的地は伊勢に決まりました。…………お父さんがいるそうです」

「暁啓が? いや、そんなまさか」

 狼狽。

 荼毘に付し弔ったはずの男が生存していたと聞いた。

 暁啓が生きている?

 それだけでこの状況が大きく変わるだろう。

 変わる……という言葉だけでは足りない。

 全てが解決する。

「説明足らずでした。お父さんの記憶情報です。恐らくは自立作動します……今は封印の様にロックがかけられていますが」

「……だとしても、なぁ」

「えぇ」

「そうか……連れ帰るつもりなのか?」

「勿論です。遺伝子情報の半分を持つ者のみが展開可能……高久さんなら知っているでしょう? 私ならできます」

「なんてこった……激動の時代がまた訪れるな」

「お父さんが死んだ時点でこうなることは決まっていました。C2制度の開始以上の変動が起こるんです」

 今更止めることはできない。とモートレは握った拳を見詰めた。

 この村には私を殺そうとする人間はもういない。

 安心して過ごせるこの村の柱である暁啓を殺したC2、モートレを救った暁啓を殺したC2……それに復讐を。

 この国の基盤を壊す。

 大和の戯言を食い千切り、決意を固めた。

「ワシはな十九年生まれでな」

 心拍数が上がったモートレに青天の霹靂のような言葉が届いた。

 空気が静かになる優しい声。

 高久は昔を振り返るように遠くを眺めながら言葉を選び始めた。

「……十九年」

 咄嗟にそれが二〇一九年であることを理解し、高久の年齢を逆算した。

 年の功。

 人生の経験者から紡がれる言葉にモートレは引き寄せられた。

「六つになる年、二十五年にも世界が動いた。日本が諸外国との軋轢に終止符を打つことを決意したあの時だ。世界情勢の混乱に乗じた侵略行為とその責を揉み消そうとした内情。全く酷い話だったさ。そしてC2制度開始、大戦……これだけの頻度で起こっているんだ、驚きはせず呆れたよ」

 指で数えながらしみじみと思い出す。

 二〇二五年。

 大戦直前まで近づいたあの出来事を高久は忘れられない。

 家族やそれに近しい人間全てが、あらゆる苦しみに呑まれた。

 それまであった幸せは奪われ、負の感情が漂い続けていた。

「……すみません、また時代が動きそうです」

「謝る事じゃない。それに今回は違うからなぁ……」

「?」

「相手が世界じゃあ無い。加えて人間でもない……正確にはワシ達は人間だがな」

「C2にとって取るに足らない、と?」

 これまで苦しんできた状況との違いを明確にする。

 脅威の規模が小さすぎる、加えてC2という力も手に入れた。

「そこには暁啓がいるからなぁ……しかも戻ってしまうとなれば」

「じゃあ復讐は止めるべき?」

 高久が危惧しているのは、記憶情報の暁啓が少女達に味方するとは限らないことだ。

 この状況下でそんな事態になれば完全に負ける。

 復讐は失敗に終わり、村も消される。

 消極的な意見は全て悪いわけではないが、モートレはそれを嫌っている。

「どうなんだろうな? ワシ達にとって良い未来が拓けるのはどっちだと思う?」

「動くべきです」

「そうだね……停滞すればこの村はそう遠くない未来に消えるんだ。明るい未来と暗い未来。そのどちらが訪れるのかは誰にもわからない……でも現状で言えることは明るい未来は絶対に来ない、だね。動かなければ変わらないんだ」

 念を押すように……自分に言い聞かせるように。

 高久は後悔を噛み締めながら声を漏らした。

 絞り出すように……声を漏らした。

「そうですね。お父さんを連れ戻します」

「……気を付けて」


こんにちは、

下野枯葉です。


年が明けました。

遂に来てしまいました2025年。

歴史の転換点です。

私はそれに負けないように動かなくてはなりません。

転換点を動かすことは私にはできませんからね。


さて、

物語上では高久とモートレの会話が終わり、伊勢へ向かいます。

伊勢を描く上で気を付けなければならない事が多くあり、悩んでいました。

用意しなければならない物も沢山ありましたから……

まぁ、最優先はフィクションであることを忘れない。ですかね。

この伊勢が転換点を明確にします。

2025年の政治と信仰、感情と謀略が入り乱れた時。

C2が運用開始され、人間という地位が確立した時。

後に大戦と呼ばれた争いが、世界規模で満ちた時。

そして……。

悲しくも憂うべき時代が来てしまいます。

お楽しみ。


では、

今回はこの辺で。






最後に、

金髪幼女は最強です。

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