七十五話 再会に向けて
モートレはプロトが通信を繋ぐまでの数分間、呆然と天井を眺めていた。
最初の一言はどう声をかけよう?
ヒェトラはどんな言葉を使うのだろう?
謝罪?
言い訳?
詭弁?
どれであろうとファントムについて問い質すことに変わりはない。
そして暁啓の最期も。
思考を巡らせるうちにノートPCが大和と繋がったことを知らせた。
『モートレか? どうした?』
ヒェトラの平然とした声が届いた。
「これはどういうことだ?」
『これとは?』
「わかるだろう? プロトだ」
あえて無知なフリをしてお道化たヒェトラに釘を刺す様な鋭い口調。
『プロト……いい名前じゃないか。なぁ、プロト』
名前を与えられたプロトタイプに対して再びお道化る。
「久しいね」
『……わざわざ連絡とは、感謝してほしいな』
「変わらないね。大和は?」
『プロトタイプと話すと都合が悪い。とのことだ』
「それもそうか」
大和がプロトとの接触を避けた事実に納得を一つ。
張り詰めた空気を醸し出すのはモートレのみ。
他のふたりはそれを意に介さず、淡々と言葉を紡ぐ。
怒りを流される状況に更に怒りが生まれる。
「話を戻すぞ。どうしてここに大和がいる? ファントムをどうして見逃した?」
火に油。
収まることを知らないモートレの怒りに対して、ヒェトラは仕方がないと表情を切り替えた。
『プロトはその名の通り、大和の原型とも呼べるものだ。即ち、この国の基盤の礎とも呼べる存在だな。博士が管理者になった際に引き渡されそのままちょろまかした』
「……」
『既にシステム干渉する権限は無く、国もその存在を感知していない……人畜無害だ』
「しかしこうして大和との通信が出来ている現状は?」
『大和か……これはどちら側でもないよ。人間側でもAI側でもないし、右でも左でも何でもない』
「……」
モートレはヒェトラの言葉の真偽を探る。
確かに、大和がどちらかに寄ったことなど無い。
完璧な中立と呼べる存在は大和だけであるのは周知の事実だった。
『ただ……博士との約束を守り続けているだけ……人間が求め続けたAIの完成系だ』
「主語が大きいな……それはどこの人間だ」
『さぁ? その時の【民意】なんだろうな』
民意という言葉を強調し、その時代を嗤う。
AIとの協調を謳いながら傀儡となることを望んだその時代を嗤う。
「話にならない。では、ファントムは?」
『あぁ…………あれはまだ使える』
ヒェトラの声色が極端に変化した。
モートレは見えるはずのないヒェトラの笑みが見えた気がした。
背筋に悪寒が走る。
スーッと背骨に伝って走る寒さ……ヒェトラへの恐怖。
それが味方にいる安心感。
「何に?」
震える唇をきつく結び直してから問いを投げる。
『今後に。勿論脅威ともなるが、利用できる部分が大いにある。それに博士を殺した存在だ……楽に殺すものか』
「それなら、まぁ」
納得せざるを得なかった。
言葉の圧がモートレの心を跪かせてしまった。
もし、目の前にヒェトラがいたら平伏までしてしまっただろう。
『さて、話も纏まったところで次だ。……モートレ、次は伊勢を攻める』
「……大和の前だよ」
作戦内容を平然と語るヒェトラに対し、念の為の注意を一つ。
『構わん。知られていようが関係ない。伊勢を強襲し博士の記憶情報のバックアップを奪う』
「記憶の、バックアップ?」
『そうだ。人格情報を含めた博士の全てがそこにある。もう一度博士に会うんだ』
「……本当にお父さんが?」
『あぁ』
瞬間、脳裏に思い出が蘇る。
暁啓との穏やかで、心地良いあの時の記憶。
夢を見ている気分の中で、現実が目の前に現れる。
「でもそれが本当だとしたら伊勢が利用しているんじゃ」
当然の疑問。
暁啓程の頭脳を持っている場合の選択肢。
『それは無い。現状、博士の思考を利用したと思われる作戦や事象、研究が行われた形跡が見られない。恐らくだが遺伝子情報の照合が無ければ展開できないと思われる』
「部分的に正解だ。遺伝子情報が半分以上一致した場合のみ展開できる」
ヒェトラの推察に対し捕捉をしたのはプロトだった。
「……」
遺伝子情報の半分……と聞いた瞬間にモートレの心拍数が一気に上がった。
この先のヒェトラの言葉を予測し、覚悟を決めた。
『博士の実子である君の出番だ……モートレ』
「……わかった」
こんにちは、
下野枯葉です。
いつの間にか12月ですね。
年の瀬・年末・師走も佳境。
あっという間。
年々、1年が早くなっている気がします。
特に今年は私自身に色々とありまして……瞬きしたら今日になっていた感じです。
さて、再開に向けて。です。
この物語の最重要人物である那須暁啓。
彼の登場に関して戸惑いや躊躇いは多くあります。
しかし、彼のカリスマが必要不可欠であることは言うまでもありません。
伊勢に向かい彼を奪う作戦が決行されます。
…………相手は伊勢です。
一番狂っている伊勢です。
少し構想を書いていますが……手が震えますね。
たぶん泣きながら書くので、楽しみにしていただければ。
可愛そう……悲しい。
辛い。苦しい。吐きそう。
あらゆる負の力が今後のお話にコートの様に纏い、全身が震えてしまいそうです。
それでは、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




