七十四話 プロト
「そうだとも」
返った声。
それは肯定の言葉だった。
「……大和。何故ここにいる?」
嫌悪と殺意の乗った声を放つ。
ここは境界線付近であり、内側だ。
「何故? 暁啓がそれを望んだからだ」
「……」
暁啓の名前を聞いて安心してしまう。
そして知り得ない事情を考察する。
これがミステリーならば十戒や二十則というルールが存在し、ヒントが散りばめられているはずだ。
しかし、現状は違う。
もしもを含めたあらゆる条件を抽出し、答えを導かなければならない。
その答えへの道の途中には暁啓と、敵である大和……そしてヒェトラがいるはずだ。
「君は少し誤解しているようだ。私は大和だが、君が宿敵と見做している大和とは別だ」
「どういうことだ」
「私はプロトタイプ。現行の大和の基礎となったものだ」
淡々と返る答えに合理性は多々あり、本当の大和であれば物理的にこのノートPCは勿論、この建物にでさえ収まらないだろう。
宿敵としての大和ではないと認める――
――が、モートレは全てを認めることが出来ない。
「続けて問おう。ここで何をしている」
溜め息が一つ。
「大和に神馬村の位置を感知されないようにしながら状況を報告している」
聞かれたからには答えなければならない。と諦めたような口調で言葉が返る。
「……は?」
「……許せないか? そうならば私を壊すんだ……暁啓の遺した私をな」
「壊すことは造作もない。聞きたいことを聞いた後でも遅くはない」
「賢明な判断だ。私も伝えたいことが沢山ある」
「では、大和……いや、ややこしいな」
「そこはモートレが決めてくれ」
「ではプロト…………お父さんの最期について教えてくれ」
怒りの中でも冷静さを残し、呼称を決める。
そして会話の内容に優先順位を即座に付けて問いを投げ始める。
「殺されたよ。暁啓がかつて守った子供が大和の命令で撃ち殺したんだ。その子供も兵士となり、良い悪いの分別はついていたが……大和の命令という絶対がそれを揺らして、引き金を引かせたんだ」
「そう……」
「その兵士は亡霊の二つ名を引っ提げて、あの日この部屋に侵入した。暁啓と出会い、問答の後に首を撃ち抜いた。死体は見たのだろう?」
「見た……見たさ。復讐を誓ったのはあの時だ。私達にはその力があった……その亡霊はファントムで間違いないな? 今どこにいる」
モートレの持つ情報とプロトからの情報が繋がり始める。
C2と合わせてファントムにも復讐をしなければならない。と使命感に駆られて更に情報を要求する。
「さぁ? 知らんよ。だが、先日の金剛襲撃の囮部隊、ヒェトラが接触し、見逃しているぞ」
「見逃した? どうして?」
「本人に聞けばいいだろう?」
「それもそうだな……復讐相手とは知らなかっただけだろうから」
「いや、それは無いぞ」
「……どういうことだ?」
「暁啓が殺されたあの日、この場所にヒェトラもいたのだから」
「…………」
言葉にできない感情が内側で暴れる。
死んででも殺したいと願う復讐心は全員が共有していると考えていたが、その齟齬の可能性に怒りを想う。
モートレの認識ではヒェトラが一番、復讐心が強かったと思っていた。
しかし、現実はどうだろう?
暁啓の仇を逃がした。
その事実を飲み込み切れず、握る拳の力が強くなる。
「プロト……大和と繋げろ。ヒェトラがいるんだろう?」
命令が一つ。
「後悔するなよ」
プロトはそれを受理して大和への接続を開始する。
「……し飽きてる」
脳裏に浮かぶ数々の後悔。
それはモートレが行動する為の原動力でもあった。
こんにちは、
下野枯葉です。
ずっと考えていたプロトが出てきました。
堪りませんね。
さて、ここまで描けたのなら本来の結末が見えますね。
でもなぁ……まだ描きたいことがあるんだよなぁ。
と堂々巡りです。
段々と物語が進むにつれて少女達への気持ちが揺らいで仕方がありません。
このまま続けるつもりですが
ゆっくりと書いていきます。
終わりを描き、見たい気持ち。
青春の最期を受け入れ難い気持ち。
葛藤の中ではありますが、続けます。
少女達の最期の日まで。
では、
今回はこの辺で。
最後に
金髪幼女は最強です。




