七十三話 痕跡
夏を前にした神馬村。
モートレは田んぼの間の砂利道をオートバイで駆ける。
ブロックタイヤが凹凸の多い道を滑ることなく進む。
250cc、単気筒。
時代遅れも甚だしいキャブ車。
トットットッ……と小気味よいエンジン音が山びこを呼ぶように響いていた。
広大な田んぼは区画を2つに分け、交互に二毛作を行っている。
農地が痩せてしまわない工夫であり、時折苦労もあったものの長い間村民の食糧事情を支えてきている。
水田が曇天を映し、独特の臭いが鼻腔を擽る。
「……クソッ」
この広大な土地。
このバイクの部品。
この村の存在。
九人の子供の存在。
その全てをC2から隠しているのは暁啓の遺したC2への認識阻害故であると思っていた。
しかし、事実は一部だけ違った。
大和の関与があったのだ。
そして大和とヒェトラが繋がっていた。
知らない状況が一度に押し寄せて混乱し、目が回った。
ヒェトラが大和へ向かうと聞いてすぐに問い質した。
返ってきた答えは言葉ではなく、場所を示すメモだった。
山奥の古い建物。
暁啓の死んだ場所。
村と外との境界線付近のその場所は、定期的にヒェトラが訪れている場所だ。
鍵を放り投げ、背を向けようとするヒェトラに掴みかかろうと手を伸ばした……が、手が止まる。
隔靴掻痒の想いが滲む表情。
その場所へと向かう理由が出来てしまった。
やや下り坂に入り、ギアを一段階落す。
回転数が高まり、やや破裂音の混ざるエンジン音が響く。
僅かな減速の後、坂に合わせてゆっくりと速度が戻る。
カーブを数回曲がった後に古い建物が見えてきた。
鍵を回し、扉を開ける。
埃の匂いが鼻腔を擽ることを予想したが、そんなことは無かった。
清潔。
その言葉が似合う。
外観はとても古いが、内装は新しく感じる。
と言っても、モートレの感じる新しいは村基準だ。
即ち、築三十年は経っている。
外観から見れば築五十年だろう。
そのギャップに驚きながらも靴を脱いでゆっくりと中へ入る。
壁際にスイッチを見つけてそれがすぐに電灯のモノと理解し、手を伸ばしてそれを灯す。
目の前に続く廊下。
奥の方の扉の目の前に違和感を覚えた。
清潔――と感じた言葉を訂正したくなる違和感だ。
更にゆっくりと足を動かしてその違和感に近付く。
黒い何かが床と壁にある。
擦ったような跡。
血の跡だ。
違和感は不快感に変わり、血の跡を避けて扉を開けて部屋の中へ。
キィ……と蝶番が小さな音を鳴らす。
物の少ない部屋。
オフィスデスクにノートPCが一台。
引き出しが三つあるキャビネットが並んで二台。
デスクの上のノートPCは画面がこちらを向いていた。
近付いてキーボードの下のパッドを軽く叩く。
するとPCはスリープモードが解除され、点灯した。
『Confederacy control system=YAMATO Version proto 起動』
内蔵スピーカーから大和の声。
女性の声に驚いたと同時に、大和という言葉に驚愕する。
その瞬間にあの血の跡が暁啓のものであるとモートレは思った。
綺麗好きのヒェトラがあれを残す意味。
大和とヒェトラの繋がり。
暁啓しか知り得ないC2システムのプロトタイプがここにいること。
これだけ手掛かりがあれば、探偵でなくとも見抜くことは可能だ。
「そう……ここがお父さんが死んだ場所なんだ」
こんにちは、
下野枯葉です。
お久しぶりです。
体調不良です。
何とか元気に。
さて、痕跡です。
ミステリーとかでは鉄板のそれでしょうか?
まぁ。今回は違います。
謎でもなんでもありません。
唯の痕跡です。
それを目にしたモートレは驚いたでしょう。
怒りが込み上げたでしょう。
私だったら調べてしまいそうです。
そういえば、
モートレの載っていたバイクはカワサキのエストレヤを改造したものです。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




