七十一話 再会は祝せない
賑わいを見せる街。
群生地かと見紛う程乱立したビルに太陽光が乱反射し、瞼を完全に開けられない。
その賑わいの中でジャンパースカートの制服に身を包んだヒェトラは慣れた足取りで歩いていた。
その年齢と性別に合った服装を着ていれば人間の目は誤魔化せる。
何度も何度もこの国の中枢たるC2を破壊し、その護衛を散らしているとは誰も思わない。
唯一不審に思うのはAI搭載の監視カメラだ。
しかし、今はどのカメラもヒェトラを捉えることはない。
存在しないことにされているからだ。
それはビーやプー、陸奥が偽装を施しているからではない。
それなのに平然と毅然と歩き続けるヒェトラは目的地へ真っ直ぐ進む。
進んだ先には堅牢な門と、空を貫く様な摩天楼。
『Confederacy control system=YAMATO』
そう刻まれた重厚な扉を開き、白亜の牢獄……C2第十制御場AI大和の裡へ。
白の世界を奥へ進み、二十四畳の部屋に辿り着いた。
中央には木製の机と椅子が一組。
ヒェトラは机の上のノートPCの電源を入れる。
PCが起動するまでの数秒の間、ヒェトラは机を何度も指で叩き、苛立ちを顕わにする。
『久しいね』
「……足労を労え」
ノートPCのスピーカーから大和の声が響き、ヒェトラは溜め息と共に語気を強める。
『道中の無事を作ったんだ。こちらが感謝してもらいたいな』
「感謝、か……まずは姿を見せたらどうだ?」
AI搭載監視カメラの追跡機能からヒェトラを外したのは他でもない大和だ。
急に呼びつけたのにも関わらず、その当然とも呼べる配慮に対して感謝を示せと言う大和に対してヒェトラは呆れていた。
本当の意味で人の心を理解していないのではないか?
いや、それを理解したうえでその言葉を選んだのだろう。
その全てを含めて呆れてしまう。
『……そうだね。乗り気ではないけれど』
ヒェトラの前に姿を晒すという恐怖に打ち勝ち、大和はその姿を現した。
机を挟んで椅子に腰掛け、真っ直ぐに瞳を合わせる。
「何の用だ?」
『早速本題に入ってしまうのか?』
「懐かしむことも無いだろう……今は命を狙い合っているのだから」
『……そうだね』
「……」
再会とは祝して然るべきだが状況が違う。
以前は相容れないだけであったが、今は対立する勢力へと変わってしまった。
敵意が生まれてしまったからだ。
本当は話したいことがお互いにいくつかあった。
でもそれは言葉にできない。
手の内を晒す危険性が生まれてしまうからだ。
『では本題。君達の望みを聞きたい』
「C2を消したい」
迷うことなく言葉を返し、現状の意思を伝えた。
強くて、棘の多い言葉。
お前を殺す。と同義の言葉だ。
『……やめておけ。今の君達では勝てない』
「そうだな。勝てる様に変わるんだ」
『手伝おうか?』
「冗談」
鼻で笑いながら可笑しな提案を断る。
『じゃあ…………和平を』
「冗談」
眉間に皺を寄せ、悔しさを噛み締めて――素晴らしい提案を断った。
こんにちは、
下野枯葉です。
秋らしさを見せながら、時折夏が戻るこの頃。
体調管理を間違えないように気を張り続けています。
一瞬で風邪ひきそう。
さて、
再会は祝せない。
です。
作者自身も数年前、久しぶりの再会を経験しました。
予定を合わせて、酒の席を設けつつ、過去を語りました。
再会とはそういうものだと実感したんです。
でも、会いたくない人も存在します。
その時、私は笑えるのだろうか?
その考えをこのお話に反映させました。
因みに次回、大和とヒェトラの関係を少し掘ります。
最強と最恐の関係性が重要です。
恨み合う関係は許容すべきだと思いますが、
恨み合わなければならない関係は全く悲しいものです。
その悲しさは苦しくて、味わいたくない感情でしょう。
ヒェトラは人間で、大和はAIです。
この明確な違いに差別は無く、区別があります。
この差を埋めるのか、そのままにするのか。
最善は如何に。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。