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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
表裏を持った瘋癲
69/89

六十九話 独白

「死んだままでいいのか?」

 呆然と天井を眺め続けるファントムに声をかけたのは入室した仁科だった。

「ビックリした……すみません気を抜いていました」

 ノックはおろか入室に気付かなかったファントムは飛び起きる様に立ち上がる。

 慌てる様に敬礼をしようとしたが、仁科はそれを片手を前に出して止めた。

「堅苦しい決まり事なんてお前にしても仕方が無いだろう?」

「そうですね……私は他の方とは違いますから。区別すべきだと思います」

 俯きながら返したファントムは脱力と共に着席した。

 正常ではない状態だと判断した仁科は対面の椅子に座り声のトーンを少しだけ下げて問いを投げた。

「それで、どうした? 生きることを語るとは心境の変化でもあったのか?」

「…………えぇ。まぁ」

 髪の毛を雑に掻き、溜め息をついてからファントムは言葉を紡ぎ始める。

「人ではなかった私は博士に救われました。文字通りの救済です。あの時に初めて生きることを実感しました……人として扱われ、この時が永遠に続けばいいと願い続けてしまう程に。でも私はあの戦場でもう一度人ではなくなり、死んだんです」

「……」

 独白の様な言葉の中に指摘したい点がいくつかあったが、仁科はそれを堪え、黙ってファントムの心の裡を聞くことにした。

「このチョーカーの適正がある私達は戦場へ送られて命を散らし、祖国を守り、私だけが生き残り……道具に成り下がった。死んでいないと励ます人もいました。でも記録上は死んだことにされて道具として扱われました。……最初はそれでも良かった。C2と祖国を守り続ければ衣食住が与えられるから、それで良かった……良かったんです。でも、博士が消えたと知った時に心に靄がかかり始めて……博士を殺した時に心が真っ黒に染まりました」

「それでもお前は乗り越えたんだろう? そうでなければここまで続けていない」

 紡がれた過去は仁科が知っていたことだった。

 しかし、それを声に出して再認識させるのが目的と推察した。

 過去を振り返ること自体は悪いことだとは思っていない仁科だったが、今の精神状態でのそれは良いことではないと考えて、現在と未来を語った。

「えぇ……真っ黒な闇の中で藻掻く様に今まで続けて来たんです。でも、松島での戦いで私の心が壊れてしまったんです」

「……博士の遺した亡霊。復讐者か」

 原因が判明した。

 記録に何度も残っているのにも関わらず、捕獲も排除もできていない敵。

 霧の様に掴めず、いつの間にか消え去る少女達。

 それがファントムの心をここまで追い詰めていた。

「本当に小さな女の子でした……でもその細く弱そうな体躯からは想像ができないくらいの膂力と圧で隊を壊滅させました。富岡達を殺し、私の心を壊しました」

「……」

 実際に相対したファントムだからこそ理解できるその存在。

 圧という言葉のその真意は仁科には想像できなかった。

 何度も死線を乗り越えたファントムが、思い出しながら震える姿は異常としか言い表すことが出来ない。

「私が死んだことにされた時の博士を語り、博士を殺した時のことを思い出させました……これが厄介な呪いになっているんですよ」

 話し乍ら段々と項垂れるファントムの心は、言葉通りに壊れていた。



「ではここで死ぬか?」



「…………」

 鋭く刺さる言葉が仁科から放たれてファントムの震えは止まった。

「ファントム。お前は名前も捨てて今を受容する他無いはずだ。死も生も自分で決めることが出来ない立場にあるお前にかける言葉は何もない」

 存在しないことになっているファントムにその現実を叩き付ける。

 一種のショック療法だな。

 と、仁科は思い乍ら敢えて表情をきつく結び続ける。

「……はい」

 覇気のない声が部屋に落ちる。

 もうファントムは終わりか。

 そう思った仁科は切り捨てる言葉を吐こうと息を吸った。

 しかし、机上で強く握られる拳を見て笑みを浮かべた。

「これは警護大隊としての俺の考えだ」

「……」

 俯き続けるファントム。

 立ち上がる力も勇気も失った自分はここで死ぬんだと想像し、全ての感情が段々と消えていく。


「俺個人としては、お前の正義が貫かれることを願っている。お前はどうして悪い過去しか思い出さないんだ? 抱いていた正義を思い出せ」


「――ッ」

 顔を上げたファントムが見たのは真っ直ぐな仁科の視線だった。

「以上だ。指示があるまで待機」

「……了解」

 ファントムの声はまだ震えていた。

 しかし、その感情は別のものであると確信した仁科は肩の力を抜いてから退室した。




 廊下を歩く仁科は携帯端末を開いて大和と通信を繋ぐ。

「申し訳ないが次の作戦についての会議はリスケだ。明日以降で予定を組み直してくれ」

『何かあったのか?』

 予定より遅い通信と、変更の知らせに状況確認をする大和。

 その質問に鼻を鳴らして笑った仁科はグッと口角を上げた。


「体だけデカくなったガキのケツを叩いてたんだよ」


『ん?』


こんにちは、

下野枯葉です。


九月も半ば。

いつまで暑いんですか?

彼岸までって昔から言ってますけど、本当に来週には涼しくなるんですか?

本当に?

信じていいの?

もう暑いのやだ。


さて、

独白です。

普段使わない言葉ですし、改めて意味を調べたら

演劇等で使う言葉でもあるそうですね。

知らなかったぁ。

今回は前回に引き続きファントムのお話です。

少し過去に触れながらこれからどうするのかを書いていきます。

少女達も動き出そうとする中、ファントムの心は壊れています。

それをどうにかするのは上司や仲間の仕事です。

仁科の出番ですね。

この仁科は結構扱いづらいなぁと思っているキャラクターでもあります。

何せ、作者の私よりも年上ですし、立場もありますし、人格が素晴らしい人ですから。

まぁ、今回は良く描けたと思います。

人間性の表現が楽しかったです。

これでもっともっとC2の張り合いがでれば……

楽しみになってきましたね。


では、

今回はこの辺で。






最後に、

金髪幼女は最強です。

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