六十五話 衝突
神馬村。
快晴の空――早朝の穏やかな陽射し。
少し肌寒さを覚えるが、陽を浴びることで良い塩梅になる。
うたた寝をするのには丁度良い頃――
――アバートとブルーケはチョーカーを起動し構えていた。
木々の中に身を隠したブルーケを追い、その姿を探す。
呼吸を止め、些細な動きを感じ取るのが吉か?
否。
アバートは木々を蹴るように跳び回り、音を大きく鳴らす。
鳴らし続け、違和感を覚えた木の上に視線を刺す。
――刹那……アバートの眼前に拳が現れた。
探り当てられた驚愕と恐怖を振り払い、ブルーケはその瞬間の最速の一撃を放った。
笑みを浮かべて躱したアバートは蹴りを一つ。
「う、まっ!」
脚に擦るように身体を合わせ、ダメージを最小限に抑える。
が、身体は回転し自由が奪われる。
隙を逃さないように拳を合わせるのに対し、回転の威力を乗せた蹴り。
身体能力だけではなく、肉体強度も底上げされている現状……砕け散るはずの骨は無く、武器を振るうのに等しい。
力の差によって弾き飛ばされたのはブルーケだった。
「真っ向勝負は……ムリだねぇ」
転がった先で呟き、林の中に身を溶け込ませる。
アバートの瞳はブルーケを捉え続けていた――が、僅かな視線移動で見失う。
ブルーケは直感的に身を隠す術を持ち、チョーカーの機能がそれを伸ばす。
人間を含めたあらゆる動物の視線や直感を感じ取り、避ける行動を理解しているだけでなく機械的な索敵や監視にも鋭敏な感受可能を持っているが故だ。
僅かに吹く風に木々が揺れ、鳥が鳴く。
この世界の中でアバートは生を実感し、孤独を覚える。
晴天と陽光が瞳に届き、段々と近付いている感覚に陥る。
自然から異質と判断されたのはアバートだけで、淘汰されてしまうような気がする。
「ぁあ……? ぁーーー」
アバートの脳内で情報が広がり続ける。
処理しきれない情報が苦痛に変わり、その後に快楽に変わった。
「ぃひひひぃぃぃ……?」
視界からの情報はチカチカと瞬いて全身が震え出す。
「かくれん、ぼか、い? あと探しに行く十秒後ね、声は出さなくてバレてし、ていいから待っていててね?」
紡ぐ言葉は所々崩れてしまい、狂気が漏れ始めた。
(うわぁ、これは大変だよ)
段々と大きくなるアバートの声を聞いて焦るブルーケはタイミングを待つ。
隠れる側は気付かれることが最大のタブーのため、相手の動きを見てから動く後手に回ることが多い。
それを完全に理解しているブルーケは先の手札を多く用意しながらただ待つ。
「足の先、も。指も髪、も見えるたらぁあ、ああ? おいし、いぃな、とるっとと、とぉいっしょに遊びよぅね。楽しいよ。おいでおい、で。…………ほらぁ!」
真っ直ぐ駆け出したアバート。
それに合わせて動き出したブルーケ。
進行方向右側からの物音に反応したアバートは動きを変える。
視線が完全に移動したことを確認してからアバートの左側に滑り込んだブルーケは左膝に横からの踏みつけるような蹴りを放つ。
アバートは駆ける姿勢。
右足が地面に着く直前。
その脚で踏み込んで駆け抜けて避けることも、跳ねて避けることも不可能。
必中と確信したブルーケは感覚的に違和感を認める。
「はぁあ?」
思わず漏れる声。
アバートは右脚の力を抜いて前傾に倒れる。
左脚は跳ね上がり、倒立するような体制に変わってしまい、ブルーケの攻撃は外れる。
両手が地面に接したことによって機動力を取り戻したアバートは反撃の一撃。
倒立。
回転。
正確に心臓を狙った蹴り。
勘で構えた両腕に命中……防御が成功したと思った瞬間にブルーケは遥か遠くへ飛ばされていた。
恐ろしい膂力だ。
地面を転がりながら意識と体がその蹴りの強さで乖離して動きが止まる。
一秒にも満たない時間で正常を取り戻したブルーケは四つん這いの状態で顔を上げた。
数分前の状況は逆転した。
――ブルーケの眼前に拳が現れた。
こんにちは、
下野枯葉です。
暑い日々が続きます。
熱で脳や身体が壊れそうな日々です。
体調管理、頑張りましょう。
さて、衝突です。
存分に戦ってください。
もっともっと戦ってください。
それが君達の命の価値です。
それが君達の命を繋ぐ手段です。
アバートもブルーケもこれからどんどん強くなります。
そして他の子たちも。
強くなります。
心も身体も強くなります。
……ごめんね。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




