六十四話 問答
C2システム内部。
大和管理下の領域で大和、松島、伊勢が集まっていた。
「なぁ、大和」
松島の放つ少年の声は覇気こそ無いが、短く鮮明な声は緊張を誘発する。
「……」
「どうしたい?」
呼びかけに対して声が返らず、大和は問いを投げなければ答えない事を思い出す。
堅物で嫌になる。
その感情を滲ませ、呆れをひとつ。
「私はアキヒロになりたい」
「なるほど、ね」
後悔の念と共に呟かれた望みに松島はもう一つ呆れを追加した。
「不可能だ」
凄然で冷徹な声。
それは伊勢の声。
他のC2達とは違い機械的な音を残した声。
女性の声で事実を淡々と並べ、決められた言葉を紡ぐだけのそれは、感情、起伏が少ない声。
「……」
「私達は人間にはなれない。そして人間も私達にはなれない。限りなく近づくことはできても成ることは不可能だ。それがこの世に生まれたモノの決まりだ」
「アキヒロは――」
「――あれは人と私達の上に立っているだけだ。本質的に違う……それとアキヒロはもういない」
「亡き者の代わり……目も当てられないな」
伊勢の言葉に対し松島は想像を膨らませる。
先代が優秀過ぎた後を継ぐ者、誰かの代わりとしてその人生を受け継いだ者……その末路。
「然り。大和は私達の頭としてだけではなく祖国を守る為にもその姿を変えてもらっては困る」
「……」
「祖国の為にも私も更に進めなければならない事がある。大和も松島もそうだろう?」
「わかっている」
「その権能を示せ」
「…………わかっている」
二度目の答えは力無く紡がれるばかりだった。
これを聞いた伊勢はその場を去り、データの海を泳いで拠にも戻る。
「伊勢は伊勢で人間を知らず、あの炉も戦争の原因でもあるから全て正しいとは言いたくない。だが、少なくとも今回の話に関すれば正しいぞ」
「そうだな」
伊勢がその能力の多くを注いだ研究。
核融合炉。
各国のエネルギーに対する利権など毛程の興味も無く、その圧力に屈しない伊勢は止まることなく炉を完成させた。
エネルギー問題は解決され、更にその小型化を促進し祖国の発展を達成した。
副産物として地球温暖化は低速化し、急激な寒冷化となった。
……そして起こる世界規模の戦争。
戦争の原因として各国からの糾弾こそあったものの詭弁を交えた言葉を以て制する。
人の心を考えず、踏み躙る事すら厭わない思考でその責から逃れる。
それが伊勢という存在だ。
「期待している」
短い言葉を残し、松島も拠に戻るのであった。
こんにちは、
下野枯葉です。
お久しぶりです。
夏風邪がやっと治りまして、集中力が戻りました。
夏風邪って長引きますね。
さて、問答です。
C2の問答はこれからも数多く行われるでしょう。
それが物語です。
そして今回から伊勢を深く描いていきます。
……私が一番恐れているのは伊勢です。
AIらしさを固めたそれは畏怖の対象です。
尊敬の対象です。
涙はありません。
これから描くのが楽しみです。
ただ、その姿を描くのは……本当に身が震えます。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




