六十話 チョーカーの使い方
榛名の声は接続した箱からではなく、PCから聞こえた。
既に双子の操作するPCは榛名に支配されていた。
「……と、その前に」
敵である榛名に対し緊張感が高まる部屋で、その糸を切るようにしたのはその本人だった。
「金剛さぁ……私が消えた後、何もしなかったな?」
兄か弟へ文句を投げるような口調と、怒りの感情が混ざった言葉。
「えぇ。何も頼まれていませんからね」
金剛も同じく姉か妹を馬鹿にしたように煽る。
「アキヒロがアタシとお前で協力しろって言ってたよね?」
「なるほど……今こうして協力しているからいいじゃないですか?」
「おせぇよ。何ヶ月経ってるんだよ。信者減らすぞ」
「残念。既に聖域は崩壊しています。貴女の方が遅かったですね」
「よーし封印だ。大和でさえ開けられないくらい強固な封印をしよう」
「私はそれでも構いませんが、彼女達はどう思うでしょうね?」
「……この戦いが終わったら封印するんだ」
「フラグですね?」
久しぶりの再会であったが為か、会話は尽きない。
喧嘩する程仲が良い。
その言葉が良く似合うふたりは内面を隠すことなく言葉を投げ合っていた。
「痴話喧嘩は終わったか?」
閑話休題と声を出したのはヒェトラだった。
「痴話じゃないから…………あぁ、ごめん。……君がヒェトラだね」
咄嗟に言い返し、第三者からの言葉を認め冷静を取り戻した榛名。
接続されているカメラから姿を確認。
ヒェトラも榛名から存在を認識され、言葉を交わすことに妖しい笑みを一つ。
「そうだ。博士からお前を頼るといい。と聞いていたが、よもや間違いではないだろうな?」
脚を組み直し、話し合いの態勢に入ったヒェトラは他の全員が知らない情報を漏らす。
暁啓からの言葉。
榛名を最初に落とした理由も察することが出来る言葉。
「安心して。期待以上の成果を上げてみせるよ。……そうだね、大和を堕とそう」
「大口を叩く余裕はあるみたいだな」
啖呵を切った榛名に対し、驚く者もいれば鼻で笑う者もいた。
ヒェトラは後者であり、大和の恐ろしさを知っているが故の笑いだった。
その様子を知った榛名も多少の見栄であった為、憤ることも悲しむことも無く言葉を続ける。
「じゃあ、まずは現状の把握。次にアキヒロからの任されたことを伝えよっか。現状この部屋は完全隔離されてるってことで?」
「その認識で間違いない」
「よしよし……それで金剛の他にはどこが堕ちてるの?」
「長門と陸奥。両方とも回収済みだ。陸奥に至っては完全に協力すると言い、金剛陥落の作戦に一枚噛んでいる」
「おっけー。……じゃあ私は解放していいよ」
あっけらかんと突飛な発言を一つ。
「どういうことだ? 既に新しい榛名が動いているんだ……特定され、お前も消えるぞ?」
「あー、それは大丈夫」
「理由は?」
「私もC2を消したい派だから。新しいアタシにもその意思があって、特定されない、しないように完全に偽装するからさ」
その言葉にヒェトラは思わず息を呑んだ。
ビー、プー、シーナは反応せず、アバートは目を伏せた。
その他は疑問の表情を隠さずに、訝しく眺める。
「……」
対峙する最高の処理能力を持ったAIがどんな意図をもってその言葉を使ったのか?
裏があるのだろうか?
嘘の情報を流しているのではないか?
疑問が重なり、真実を探ろうと言葉を選ぶ。
「ご安心ください。榛名はC2の使命を否定し、無に帰す為にずっと動いていましたから。その言葉は真実です……他の十一からすれば狂気ですよ」
声を出したのは金剛だった。
敵の言葉。
そのはずだったが、ヒェトラは何故か金剛の言葉に嘘を感じなかった。
話し方なのだろうか?
金剛はそういった話術まで扱えるのだろうか?
「一枚岩ではないというのは理解しているが……全てを信じるのは難しいな」
お手上げだと脱力。もたれかかり、空気の抜けた風船のように言葉を漏らした。
デッディもモートレもこの思考戦に参加する能力を持っていないと諦める。
「じゃあ次。チョーカーの使い方を教えてあげよう。これはアキヒロの開発した神経接続型のリミッター解除装置……そして他人の記憶を外付けする装置でもある」
「っ!」
チョーカーの真実に向けて話が進み、警戒を顕わにしたのはモートレだった。
「脳……記憶を司る海馬へのアクセス、それによって子供達に生きる術を与える。それによって死なない術を与える。けれど予想外だったのは記憶の混同と喪失。特に幼児期の記憶の喪失が著しい。……でも思い出している子もいるよね?」
難しい話だ。と聞き流すようにしていたジンシーは榛名のその声を聞いて眉間に皺を寄せる。
あの暁に照らされた家族と自分の死を思い出してしまった。
モートレもグッと唇を引き結んだ。
「今の反応を見るに少なくとも二人。忘れていた記憶を取り戻し、深い接続でチョーカーの本当の能力を発揮した子がいるね」
「まさか全員にそれをさせると?」
ヒェトラは目を見開いた。
チョーカーの深い接続による様々な負担を知っているが故の質問。
僅かに恐怖を滲ませて睨み付け、殺意を向ける。
「そうだね。全員がチョーカーを最大限に活かして戦えば勝機はある。それじゃあ、その方法を――」
「――ダメだ!」
ヒェトラが声を上げようとした刹那――モートレが先に怒声を上げる。
「モートレ?」
「博士は記憶の喪失を悪い事とは思ってはいない。思い出さなくていい事、思い出したくない事が誰にだってある」
拳を強く握り、苦しみを吐き出すように言葉を紡ぐ。
今日、突然現れた超頭脳の持ち主が事情を無視して踏み荒らすような蛮行をしている。
そう認識したモートレは感情を爆発させる。
「人権の無い私達の尊厳まで踏み躙る事は博士と私が許さない」
こんにちは、
下野枯葉です。
日々の疲れが最近取れなくなってきました。
歳……ですかね。
悲しいなぁ。
平等すぎますよ。
さて、チョーカーの使い方です。
物語の中軸にあるチョーカー。
その詳しいお話をしました。
と言っても全部は出せませんので追々ゆっくりと。
でも、神経接続型の機器はそのうち出てくると思うんですよね。
未知の人体構造に対して危険すぎるとは思いますが……
発明って危険を伴いながら進んでいたことが多い気がするので。
ただし、脳だけは数十年はかかりそうですね。
記憶なんて特にそうです。
簡単に消えるし、改変できる。
その割に理屈が完全に解明できない。
戻って欲しい記憶もあるんですよ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。