六話 殲滅戦
四月九日
午後九時。
十トンウィングトラックに揺られ続けた九人の少女達は日本海を眺める。
「頼むぞ」
闇夜に紛れ、全員の降車を確認した運転手の老人はヒェトラに向かい短く呟いた。
「えぇ、任せて」
答えたヒェトラは振り返り、表情をきつく結ぶ。
海岸に着けられた三隻のボートに各々が乗り込み、ゆっくりと青海島西側の海岸へ。
それぞれのボートを運転していた者が人差し指と中指をクロスさせるハンドサインを一つ。
ベストを尽くすことを誓ったヒェトラは小さく頷いてチョーカーを起動する。
「諸君、我々はC2を灰燼に帰す為ここまで来た。小さな叛逆と笑われることはない。これはC2に我々の正義を叩き付ける戦いだ。これは想いを、父を、私達を踏み躙ったことに対する報復だ。罰の執行だ。正義を抱き掲げろ。…………チョーカー起動!」
ヒェトラの言葉に従い、チョーカーを起動する。
チョーカーの記憶情報が使用者の脳に流れ込む。
「「インクルード」」
ビーとプーが端末を操作し、全員の同調をそれぞれ上げた。
「第九の榛名のような訓練にも満たないものとは大違いだ。今日こそが全ての始まりだ!」
ヒェトラは自分達の初陣である榛名強襲作戦を肩慣らしとしか思っておらず、長門からがC2破壊のスタートだと宣言する。
午後十時二十分。
「進め! 全てが敵である! 作戦開始!」
号令に合わせC2第四制御場、AI長門に向け走り出した。
デッディ、ブルーケ、ジンシー、モートレが列を乱すことなく進み、内部への侵入を始める。クリアリングを行いビーとプーの進む道を作る。
電子的なロックがかかっていれば直ぐにビーかプーが解除をして止まることはない。
アバートはヒェトラから直接指示を受け、建物外の索敵装置を虱潰しに破壊する。
シーナは所定の位置に着き、呼吸を整える。
風が吹き荒れる中、体の軸は一切ブレず、その目で狙撃場所を確認する。
長門内部各所で、通信機器の異常等が目立ち出した頃。
ビーとプーは長門のサーバーへのアクセスを開始していた。
「あと」
「五分」
ブルーケとジンシーに護衛されるふたりは状況をヒェトラに報告し、その手を早める。
「了解。デッディ、アバートに合わせろ」
「了解」
ヒェトラは青色の信号弾を空に打ち、素早くその場を離れた。
アバートが信号弾を確認した瞬間、チョーカーから筆舌にし難い記憶が蘇り、同調率が大きく乱れ始める。
「しししぃ……死にたく。ないないな……死、死…………あれぇ? 死ねたくななな死ぃ?」
支離滅裂。
思考から放たれる言語に著しい欠落が確認され、焦点がズレる。
数秒の沈黙。
その後の明らかな暴走。
人間の性能を限界まで発揮し、建物を足場に駆け回り、敵と認められた全てを薙ぎ倒す。
七人の兵士の死が確定した時、島全体に警報が轟く。
敵襲。
兵士が事の重要さに気付き、最大警戒に移る。
敵は外で暴れている。
侵入を許すな。
命令は通信機器の故障から短く行われ、敵の情報は確定しない。
銃声を頼りに兵士は隊列を組み、建物外へ走り、走り――。
走る脚が弾け飛んでいた。
首が落ちる。
胸を貫かれ、視界は暗転する。
デッディとモートレは混乱の中駆ける兵士を丁寧に、迅速に殺す。
――出口まで辿り着いた兵士は全体の六割であった。
しかし、出たところで即座に体が弾け飛ぶ。
超長距離からの狙撃。
体の弾け方から使用弾薬を予想した兵士は半ば諦めの感情を示した。
2㎞先の敵を捕捉したとしても倒す術を持ち合わせていない。
「くそっ……」
溜め息と共に壁にもたれかかった瞬間、彼は他の兵士と同様に弾け飛ぶ。
唯一、違ったのは壁と共に散ったことだけだ。
「今のは敵に同情しちゃうなぁ……」
壁ごと敵を撃ち抜いたシーナは建物の隙間を縫うように跳び、狙撃位置を変え乍らそう呟いた。
建物内の監視カメラシステムは既にビーの手によって掌握され、敵の位置が完全に捕捉されている。
そしてプーがその情報を地図上に表示する。
後の作業はシーナが撃ち抜くだけ。
着弾した時には狙撃手は移動を開始している為、一方的な攻撃が行われるだけであった。
「――一切を逃すな。これは殲滅戦である」
ヒェトラは消えゆく命を目の前に、慈悲の無意味さを叫んだ。
こんにちは、
下野枯葉です。
久しぶりに書いた気がします。
世界観を気に入っているこの作品ですが、もっともっと良くなるように頑張りたいですね。
それはそうと、キャラが多くてなかなか難しいですね。
個々の特色を際立たせる為に、各話で強調していく予定ですが……
うまく書けるかなぁ。
不安だけど、想いの全てを書いて、少女達の感情を明確にしていきたいと思います。
嗚呼、死ぬはずだった君達は斯くも美しい。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。