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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
4章 狂気の識者
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五十八話 あの日

 鉄扉がゆっくりと開いきデッディがその姿を現した。

 数発の銃声が響いていたが心配することなく待っていたジンシーとブルーケは、手に持っているそれが成果であると認めた。

 喜ばしい事であるのに、表情は暗いデッディ。

 今までなかった心配がふたりを襲った。

「何があった?」

「万事上手くいった。問題はない」

 心配の声への答えは冷静な声だった。

 何かがあったことは察することが出来たが掛ける声が見当たらない。

「そう……なんだ」

 ジンシーも額を指で軽く撫でてから目を泳がせる。

 数滴付着した血が返り血であることは理解できるが、それが一体誰のものなのかはわからない。

「母と金剛を殺した。撤収だ。帰るぞ」

 そう言ってから歩き始めたデッディの後を追う。

 心なしか歩くスピードは速く、ここから立ち去りたい気持ちが表れていた。

 そしてその足取りは一切の警戒を持っていなかった。

 それを認識したジンシーとモートレは焦る感情を何処にぶつけようかと悩む。

 隔靴掻痒。

 デッディの気持ちの全てを知ることはできないが、励ましたい気持ち、敵地から離れるまで警戒を続けて欲しいという気持ち。

 そんな葛藤を一歩一歩繰り返しながら三人は進む。


 本殿の扉を開けた瞬間。

 人の気配を感じ、ジンシーとモートレは戦闘態勢に入る。

 石畳の通路の両脇に信者たちが跪いていた。

 全てを知るデッディは悠然と歩を進める。

 跪く人間全てが私を神と認識している。

 崇められているハズなのに優越感は無く、嫌悪感だけに包まれている。

 事情を知らないふたりは戸惑いを隠せない。

「ねぇ、デッディ。これは?」

「害はない。もう、ここは終わっている」

 言葉の意味を理解する間も無く離れてしまう。

 追いかける脚を回し、その背中を追う。



 ……どこか遠くに行ってしまう気がした。






 高久の運転するバンに乗り込み、揺られる。

 松島での陽動作戦は成功し、無事に本命の金剛を落とすことが出来た。

 しかしスッキリとしないジンシーとモートレは窓の外の景色を眺めることしか出来なかった。

 デッディは助手席で俯いて動かない。

「何かあったのかい?」

 いつもと違う雰囲気を感じ取った高久はそう声をかける。

「何も。作戦成功です」

 気遣いを聞いて笑顔を返そうとしたが、数時間前の記憶がそれを許さなかった。

 愛層の無い短い言葉。

 平静を装うとするが絞り出すように喉を震わせてしまう。

「そうは見えないよ? ワシも親だからわかるよ。心の中にしこりがあるんだろう?」

 高久は缶コーヒーを一口飲んでから囁く。

 ハンドルを握る力が少し強くなり、ギュっと小さな音が鳴る。

「……えぇ。整理をするのに時間が必要です」

「時間なぁ。それも必要だろうけど……ワシ達にはどこまで先があるか分からんからなぁ」

「……」

 時間の経過での解決。

 それは最善とは言い難い手段だ。

 そう語る高久は自分の人生を思い出しつつ、現状も踏まえて言葉を選ぶ。

「老婆心だよ」

 自分も待って、待って……何も変わらなかったことがある。

 それは後悔の何ものでもなく、そんな経験をするべきではないと笑顔を一つ。

「私が金剛で生まれたのは知っていますよね?」

 そんな心を読み取ったデッディは意を決した様に呟く。

 辛い過去の前提を呟く。

「あぁ」

「金剛を落とす為に母を殺しました」

「……」

 デッディがあまりに自然と親殺しを語った為、高久は声が出せなかった。

「それ自体に後悔はありませんでした。後悔が無い事に驚いたんです。私の心は何処に行ってしまったんでしょう? 私はまだ人間なんでしょうか?」

 脱力し淡々と語る。

 瞳の先には車のライトで照らされた道しか映っていないが、心には引き金を引いた感触が鮮明に刻まれている。

「母親を殺して、金剛も落とした。その時何を考えていたんだい?」

 どう言葉をかけるべきかと悩む時間も無く、高久は問いを投げる。

 まるで決まった言葉を投げる様に。

 それもそのはずだ。

 神馬村の住人は同じ目的を持っているのだから。

「それは勿論、父さんと神馬村のことです」

 デッディも悩む時間も無く、当たり前だ。と体を高久に向けて声を上げた。

「それならまだ人間だよ。ワシ達はもうあの村しか残っていないんだよ? それを想えるのなら人間だよ」

「でも――」

「――人の命はせいぜい百年弱。でも村の命はそれよりもグンと長い。そしてデッディは村のことを考えてくれた。それだけで十分だろう?」

「……」

「ワシは人を殺したことが無い。その仕事を子供の君達に任せてしまっている負い目がある。どうか悩まないでくれ。暁啓が描こうとした未来を作りたいが……無理ならもう諦めてもいいんだよ?」

「今更終わりになんてできない!」

 感情が溢れる。

「子供に任せることじゃない。もう終わりにしよう」

「ダメ! ……絶対に終わりになんかさせない。父さんの未来を終わりになんかさせない。私を救ってくれた父さんを無下にしたこの世界を許さない」

 消えかけていた心の火か再び灯る。

「答えは出たじゃないか」

 笑い声を漏らしつつ悪戯な笑顔を一つ。

「……ねぇ高久さん」

 やられた。と思ったデッディだったが、励まされた事実も否定しきれず、状況を飲み込んだ。

 そして乗り出していた体をシートに完全にあずけて瞳を閉じる。

「んー?」

 本調子を取り戻したデッディに安心した高久はもう一度コーヒーを口に含みながら応える。

「父さんはどんな世界にしたかったんだろう?」

「ユートピアではなかったなぁ。少なくとも不必要な不幸が無い世界だろうなぁ」

「理想郷……かぁ」

 どんな世界が広がっているのだろうか?

 想像ができない世界。

 血生臭い生活も、不幸も、嫉妬も、殺しも、あらゆる悪が無い世界なのだろうか?

「C2が運用される時は夢見てたよ。誰もが幸せな世界をなぁ」

「……」

 高久の言葉を聞いて、不快感を覚えた。

 誰もが幸せ。

 そんなものは絶対に無い。

 絶対にどこかで不平不満が生まれてしまう。

 それこそ人でない誰かが管理しなければ実現することは無い。


 それは神か……AIだ。


 C2管理下の世界は確かに誰もが幸せであったが、人としての尊厳は曖昧になり、計算によって導き出された幸せを強要させられる。

 不安定な幸せが保たれている。

 その不安定な幸せを保つ為に人間では無い人間が割を食う。

 実情を知っている復讐者達はこれを思い出す度に強い嫌悪感を抱く。

「俺達は人じゃあ無くなっちまたんだ。その理想郷へは入れない事が決められてるんだ。暁啓は理想郷を日本全土に広げる平等か、理想郷を人間の手から離す平等かで悩んでいたよ」

「どっちも平等ですね」


「君達を救った暁啓は後者にすると決めたみたいだけどなぁ」


 その日を思い出した高久は瞳を潤ませる。

 少女達を救い始めたあの日。

 九人目のデッディを救ったあの日。

 C2の考えを理解したあの日。


 完全な管理者達を不完全に変えると決めたのだ。



こんにちは、

下野枯葉です。


急に気温が高くなり驚いています。

毎年この時期は体調崩すので今年こそ耐えます。(5敗済)


あの日。

そう思い出すことがよくあります。

良い思い出も、悪い思い出も。

戻りたいと思うことも、戻りたくないと思うことも。

特に神馬村の住人達は悪い方でそう思い出すことがよくあるでしょう。

あの日を描く日も近いです。


さて本編では金剛が陥落しました。

次回から別の目的に向かって頑張っていきます。

特に書きたいのは伊勢ですが、上手に描けるでしょうか?

だってアイツ、変だもん。

それと未来っぽいことも描いていきたいですね。

こう……ハイテクで、眩しい感じ?

大変そうだぁ。

頑張りましょう。


では、

今回はこの辺で。






最後に、

金髪幼女は最強です。

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