五十六話 輝きを示す
「……畜生」
短く呟いたデッディは過去をハッキリと思い出し、天窓の奥の空を眺める。
毘を創る為のその行為。
死ぬはずだった過去と共に思い出したそれは、初めて身に受けた暴力。
あの時と同じ言葉を金剛は紡ぎ、興奮を隠さない。
「ここに巨と優秀な人間が揃った……さぁ、あの時果たせなかった毘の再臨を!」
その声を引き金にフラフラと母親は動き出した。
育ち始めた枝に細い両腕を前に突き出し、デッディに歩み寄る。
『息の根を止める』
その意思が行動になった。
亡者が仲間を作るようなそれは、デッディに僅かな恐怖を与えた。
体を構え、銃に手を伸ばす。
「止まりなさい」
張り詰めた空気を更に息苦しくしたのは金剛の声だった。
「……金剛様?」
命に従い動いていたはずなのに咎められた現実に母親は狼狽する。
なぜ?
どうして?
間違ったことをしてしまったの?
立場が上の者に叱責されることは精神を著しく疲弊させる。
そして精神と肉体の状態がまともではない母親は膝を震わせて頽れそうになる。
震えた眼差しが金剛を捉え、その動きに集中する。
「毘になるのは貴女ではありませんよ」
「……え?」
母親とデッディの疑問は一致した。
どういうことだ?
他の信者が現れるのだろうか?
状況が確定する為には金剛の声が必要だ。
視線が集まる。
金剛はゆっくりと右手でデッディを示す。
嫌な予感がデッディを襲う。
嗚呼。
ダメだ。
それ以上言葉を紡ぐな。
真っ黒な笑顔。
この笑顔は……良くない。
「私が示した巨は…………巴です」
その言葉で全てを察した。
母親はその場に頽れ、死を確信する。
デッディは右手を震わせて、銃から手を降ろす。
「さぁ……巨の信者よ。毘と成るのです! 私にその輝きを魅せてください!」
ふたりの絶望的な表情を前に口角が上がり続ける金剛。
彼の言葉からデッディは自分が巨であり、贄が母であると理解した。
聖域から離れたのにも関わらず、信者であり続けたという事実。
そして、都合の良すぎる状況にデッディは感情を絶望から怒りに変えた。
「……ふざけるな!」
荒げた声に怯むことなく金剛は首を傾げた。
「おや、可笑しな話ですね? 貴女に不利益のある話ではないはずですが? 私と母親を殺したい程憎んでいる。そして母親を殺せば貴女の望みが全て叶う。良いことばかりではありませんか?」
詭弁と判断したい内容だったが、正論に他ならない。
「……」
二の句が継げない。
「さぁ」
両手を広げ、声を上げる。
「…………」
反論を紡ぐ為の知識を求めてチョーカーを起動する。
限界を超えた身体能力、死の後に消えたはずの記憶、冷静な思考力。
それを与えられたデッディは最善手を探す。
「さぁ!」
金剛は煽るように叫ぶ。
ダメだ。
ダメだダメだ。
この思考力で導いた最善はダメだ。
別の手段を考え――
「嗚呼。何を悩む必要があるのだろうか」
――る必要はない。
「……実に合理的だ。躊躇いは――」
慣れた手付きで銃を抜き、狙いを定める。
「――無い」
その言葉と同時に引き金は引かれた。
鮮血、命、想い。
全てが飛び散った。
流星の様に弧を描きながら。
こんにちは、
下野枯葉です。
遂にデッディの物語も終盤です。
そして金剛の今後と九人の少女達の今後に期待して下さい。
申し訳ないと思いつつも九人の少女達には今後も酷いことをしなければなりません。
それも含みで懺悔と悦を胸に描き続けます。
いつかお話した流星について。
……命と照らすのは正解でした。
私が見た流星も、デッディが見た流星も
命の灯が消えゆく際の最期の輝きだったのでしょう。
その命が大切なものであろうと憎んだものであろうと、
等しく命でした。
死を描く必要のあるこの作品にとって重要なことを知りました。
死を描く単純な物語に意味を持たせる必要性を知りました。
それを踏まえて私は次に行きます。
もし、
もしも、この物語を好いてくれるのであれば……
そこにも注目していただけるとありがたいです。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




