五十四話 成長をその目で
デッディは聖域の裡で生まれた。
京の町の病院ではなく、本当に金剛の御前で生まれたのだ。
父親が最上位の信者……黒襟の毘だった為の特例。
そんな父親の顔をデッディは覚えていない。
デッディに物心がついた時、自分が巴という名前があって、父は家におらず、母と二人で京の町に住む信徒であると知った。
その時、彼女は既に上から七番目の位、緑襟の嘶になっていた。
母親は上から四番目、桃襟の巨であり、家族全員が敬虔な信者と言える。
巴は何不自由なく暮らしていた。
聖域での社会的地位は約束されており、勤勉な巴は中等教育を既に履修していた。
成績が良ければ褒められ、祝詞を覚えれば褒められ、神具の手入れを行えば褒められ。
母や金剛、他の信者に褒められることが嬉しくて堪らない。
一歩ずつ成長する自分を感じる。
金剛に呼ばれたのはそんな日常の中だった。
七月に入ったにもかかわらず金剛の部屋へ続く廊下は冷たさを感じた。
母とふたりで歩くその廊下はとても静かで、薄暗くて……寂しさを感じるものだった。
数分歩いたところで目的地に着く。
大きな扉だ。
幼い巴は直感的にそう思った。
金剛の文字を読んだ瞬間に心臓がドクンと鳴る。
どんな姿をしているのだろう?
どんな話をされるのだろう?
褒めてくれたら……嬉しいな。
巴は希望を抱え、その扉が開かれるのを眺めた。
「よく来てくれましたね」
出迎えたのは金剛。
その姿は3Dプロジェクターで映し出される。
身なりに頓着しない白衣のおじさん。
第一印象はその程度だった。
後にその印象はもっともっと最悪なものに変わるのであった。
「……はじめまして」
戸惑いを隠すことのできない声色で挨拶を一つ。
巴の姿を見るなり金剛は笑顔を一つ。
「大きくなりましたね……巴」
優しく落ち着いた声で呟く。
何も考えず、身体の成長という目で見てわかる情報だけで決まり文句の様に呟く。
笑いながら呟く。
巴はその表情と言葉の真意を汲み取ってしまい、嫌悪を感じていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
桜の開花が遅くなり、少し寂しい新年度となりました。
希望に満ちた瞳を目の前に、草臥れた私は言葉を探せずにいました。
どうしましょうね。
さて、成長をその目に。
私も親戚と久しぶりに会うと『大きくなったね』とよく言われました。
でも今は言われることはありません。
いつから言われなくなったのかを考えたときに、少し……寂しくなりました。
目に見えない部分は成長している筈なのに、そこを見てもらうのは難しくて。
難しくて。
そんな葛藤と憤りを【巴】はどう感じていくのでしょう。
【デッディ】はどう切り捨てたのでしょう。
上手に描いていけたらいいなあ。
大きくなってしまうんだよ。
ねぇ、巴。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。