五十三話 聖域創造
チョーカーから流れる記憶は詭弁と正論を使い分ける技術をデッディに与える。
金剛はデッディの様子が変わったことに気付き笑みを浮かべた。
気持ちの悪い薄ら笑い。
そんな金剛は顎を数回撫で、暁啓の顔を思い出した。
「捨てられないモノもありますよ。……さて、どの様な用件ですか?」
名前に対して忌避を示したデッディに諭すような口調を心掛けた金剛。
大人としての優しさを前面に、塗り固めた偽りの笑顔のままだ。
「榛名の権限を取り戻す。そしてお前を殺す」
今にも頽れそうな母の姿を見ることなく、最高権限者だけを視線で刺す。
「物騒ですね……巴の願いなら叶えたい気持ちがあるので是非。と答えたいところですが、流石にそれはできません」
「そうか」
予想通りの答えに対し胸元のハンドガンを指で示し、視線を送った。
母に関しては黒襟になる為に金剛と同じ生活を過ごしている。
それは食事や睡眠を極限まで削ることを意味している。
何をするまでも無く死ぬのは目に見えているので銃口は金剛に向けることが出来るように足の置き場を調整する。
「困りますね。条件次第では検討の余地があります。お話ししましょう」
両手の平を見せて戦闘の意思が無い事を示す。
そしてデッディとの会話を望むという意思も同時に示した。
「条件?」
「私の後継として巴が戻るのならば交渉は成立です」
「ふざけるな。私を殺した場所に戻るワケが無いだろう。それにお前の場所に誰が立ちたいと思う?」
眉間に皺を寄せ、苛立ちを隠すことなく言葉を投げ捨てる。
「いい加減にしなさい!」
その言葉に強く反応したのは母だった。
「……」
蚊帳の外からの言葉の様だった。
「金剛様に対してその態度と言葉遣い……どういうつもりなの?」
金剛が話している間は黙っているのが信者の常だが、耐えきれないと声を荒げた。
血走った瞳の瞳孔が大きく揺れ、健常ではないことは一目で理解できる。
その形相と感情の揺れ方、態度を見てデッディは笑い声を漏らす。
馬鹿馬鹿しい。
そう伝えることのできる、煽るような笑い方。
「……様? 私は既にコイツに対する信仰は無い。むしろお前達ふたりに対して殺意のみを持っている」
「殺意を向けられる覚えはないわよ? むしろ生きていたことに喜んでいるわ」
母の声は震えていた。
当然だろう。
実の娘から親として認識されないばかりか、殺意を向けられている。加えて手早く殺すことのできる道具を持っている。
恐怖を感じるのには十分だ。
「贄にする為だな」
贄。
七年前のあの日をこの場所にいる全員が思い出した。
金剛は笑みを浮かべ、母は唇を噛み、デッディは溜め息を吐く。
「…………金剛様の為よ」
「議論にならない。……金剛、その条件は受け入れられない。他の条件を示せ」
話の腰を折った母を議論の場から切り捨てて、本題に戻る。
「それは残念です。他の条件となると――」
金剛は笑みを消す。
「――毘を創って頂きたい」
「……畜生」
短く呟いたデッディは過去をハッキリと思い出し空を眺める。
聖域を創る為のその行為。
天窓からの月明りはずっと赤いままだ。
こんにちは、
下野枯葉です。
今年度も終わりますね。
あぁ、来週もまだ23年度ですね。
大変だぁ。
さて、聖域創造。
今回は金剛と母のキャラクターを少し触りました。
次回から七年前に時を戻してもっと詳しく書いていきましょう。
七歳のデッディかぁ……どんな性格なんだろう?
どんな生活を送っていたんだろう?
あぁ。
楽しみだなぁ。
そして毎回のことではありますが、
少女達に申し訳ないなぁと思います。
あんなにも酷い過去を背負わせなければならないのですから。
……ごめんね。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




