五十二話 再会
正門を抜けて三人は金剛御所へ真っ直ぐ向かう。
その途中で黄色の襟、薬の信者に声をかけられたがデッディが対応した。
「愛を享受しに来た」
短い言葉に対し一歩引いた信者を一瞥してから迷うことなく進む。
道は石畳が敷かれ、他は砂利が広がる。
灯篭が均等に並び、その灯は火ではなくLEDであり情緒もないなとモートレは心の中で笑った。
葉桜も散り始めた木々の色が風に揺れ、黒い空に溶ける。
本殿に入る直前、そんな空を見上げたデッディは流星を一つ見つけ願いを探した。
「神を消してくれ」
星に願いを告げてから本殿に一歩踏み入れた。
薄暗い屋内は木造でありながら所々に火の灯りを取り入れている。
まさしく神社と思えるその作りは二一〇〇年という時代にとって非合理的であると言わざるを得ないが、洗脳の類で用いられる見た目から、というものに近いだろう。
懐かしい香が鼻を擽り過去が蘇る。
慣れた足取りで奥へ進み、観音開きの金属製の戸の前に立つ。
戸に書かれた文字を眺めて三人はそれぞれの感情を滲ませた。
Confederacy control system=KONGOU
両手を伸ばし、戸を上げようとした刹那――
――赤襟、李の信者が二人現れて声を放つ。
「中へはおひとりのみでお願いします」
やはりと肩を落としたデッディは頷き、モートレとジンシーに顔を向ける。
表情は見えないが意を汲んだ二人は待機する姿勢を見せて信者を納得させる。
「失礼します」
様子を見た信者はその場を立ち去った。
「ホントに大丈夫なの? 私入っちゃうかもよ?」
立ち入るより先に信者が消えたのを見てジンシーが馬鹿にしたように呟く。
入るな。という言葉を放ち、入らなかった。という状況を見ずに立ち去るのは確かに滑稽と言っても差し支えない。
モートレもジンシーに同意を示して肩を小さく上げた。
「いや、いい。金剛相手なら私一人で十分だ。別のところで事を大きくしたくない」
「りょーかい。……頼んだよ」
「言われるまでもない」
ゆっくりと戸を開き裡へ。
一台の巨大コンピュータがあるのみの部屋に入り戸を閉める。
一歩……また一歩と近付くとコンピュータの方から足音が聞こえる。
(誰だ?)
警戒を一つ。
そして女性が一人、コンピュータの横に立った。
堅牢な部屋にある唯一の天窓から赤く染まった月の光が差し込む。
デッディは顎に手を当てながら考えを巡らせる。
想定外の事態に対し、デッディはヒェトラへ報告をした後、対応を考えている。
交渉すべき状況ではあるのだが、それに従いたくないという自分の考えが乱れる。
眼前にはAI金剛……そして母の姿があった。
「巴……よく戻ったわね」
七年前よりも顔も声も草臥れている母を認めて月日の流れを実感する。
ゆっくりとベールを取り、目を合わせる。
灰色の襟。
痩せた体に落ち窪んだ瞳。
骨と皮だけの白い腕が袖から伸びている。
月日が流れただけではない。
そう確信したデッディは3Dモデルで現れた金剛を睨み付けた。
「大きくなりましたね……巴」
手入れをしていない短髪、無精ひげを蓄えた中年。
細身で長身、白衣を纏ったこの男こそが金剛……聖域の信仰対象だ。
「その名前は捨てた」
名付けた親の前でそう吐き捨てたデッディは右手を項に伸ばす。
デッディはチョーカーを起動した。
こんにちは、
下野枯葉です。
再会です。
誰かと再会したことはありますか?
その相手が会いたくない人間だったことはありますか?
私はあります。
今回のデッディのようにもう二度と会いたくない人間です。
でも、会わなくてなならない人間です。
とても辛かったです。
言葉が出ません。
……だからデッディはチョーカーを起動しました。
そうしなければ精神がもちません。
彼女は強い心を持っていますが……
人間という枠に収まっている以上、抗えない苦痛があります。
会いたくない人間が身内や近しい人間というのはしこりが残りますから。
デッディ。
ごめんね。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




