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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
4章 狂気の識者
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五十話 涙の理由

 薄皮一枚なら許容し合い、致命の一撃は捌き合う。

 手数は圧倒的にヒェトラが多いが、受けの構えに入ったファントムには中々届かない。

 ファントムはカウンターを狙うが、ヒェトラの攻撃後の隙が少ない動きと、体勢を崩す攻撃が絶え間なく浴びせられ、思うように動けずにいた。

 拮抗している戦況。

 そこに枝を踏む音が鋭く入り込んだ。

 ふたりは咄嗟に距離を取って音の方向に視線を送った。

 それがどちらかの援軍であることは明確であったからだ。


 視線の先には二つの屍を引き摺るアバートだった。


 屍が駒形と富岡であるとすぐに認めたファントムは無線に手を伸ばそうとした。

 と同時に仁科からの声が届いた。



『……金剛陥落』



 松島を防衛している筈の仁科からの声は確かに『金剛』と言った。

 何かの間違いか? と疑問を瞬間的に巡らせ、こちらが囮であることを悟った。

 ヒェトラも金剛陥落の知らせを陸奥から受け取り、ファントムに笑みを投げた。

 狂気を肌で感じ、身を震わせたファントムは小さな咳を二つ。

 それは隠れている甘楽への合図。


 銃声が一つ。


 木霊を聞き、静寂で包まれる。


「……詰めが甘い」


 ヒェトラは呆れた表情を浮かべてファントムを見た。

「どういうことだ?」

「…………」

 ファントムの問いに答えないヒェトラはチョーカーを操作し、別動隊の報告を受ける。

 状況を把握できず、ファントムは絶望を感じる。

 確かに銃声が聞こえたが誰も撃たれていない。

 甘楽に限って静止している敵を外すとは到底思えない。

 眼前の少女……ヒェトラは何も語ることなく、ビゾンを拾い上げて戦闘態勢を解いている。

 アバートも屍をその場に落として動かない。

 そんな状況の三人の中央に何かが飛び込んできた。

 反射的に構えたファントムは『何か』を認識した瞬間に絶句した。


 『何か』とは右目が撃ち抜かれた甘楽の頭部だった。


 頭部が投げられた方向からもうひとり、少女が近づいてくる。

「自分が考えていることは相手も考えていると思った方がいい。豆知識だよー」

 それはSVUを担いだブルーケだった。

 隠れて狙っていた甘楽が発砲する直前に頭を撃ち抜き、首を落としてから姿を現したのだ。

「どうやって隠れていた……お前の反応は一切なかった」

 困惑を怒りに変えた声は震えていた。

 甘楽の狙撃で数の有利を得るつもりが叶わず、仲間の命が散った。

 その事実だけで心臓が煩わしい程鳴り響き、膝が震え、焦点が狂う。

 狼狽を隠すだけで精一杯だった。

「ねぇ、聞いた? こいつバカ! バカだよ! 笑っちゃうね! ね、ふたりとも。滑稽ってこういうのを言うのかな?」

 額に手を当てて笑うブルーケ。

 肩を竦めて鼻を一度鳴らすヒェトラ。

 口角を上げてニタニタと笑うアバート。

 絶対的な悪に囲まれ命を掌の上に乗せられている。

 そう感じたファントムは背筋に冷たい汗が流れたのを認める。

「クソっ!」

 何もできない自分に腹が立ち、吐き捨てる。

 それを見てブルーケの表情から笑みがスッと消えた。

「汚い言葉を使わない方がいいよ? うっかりお前のこと殺しちゃうからさぁ………………あー、お前ムカつくな。ねぇー撃っていい? 撃っていいよね? 一発だけでいいからさぁ」

「ダメだ」

 セレクターを鳴らしたブルーケに対してヒェトラは短く呟く。

 不満の表情を滲ませ従ったブルーケはSVUを担いで落ちているビゾンを拾いに向かう。

「……どうして殺さない?」

 命を掴まれているファントムは撤収準備を始める少女達に聞いた。

「一つ」

 一通り装備の確認を終えたヒェトラはゆっくりファントムに近付きながら声を漏らす。

「?」

 左脇腹から前面にかけてヘリカルマガジン用のポーチが三つ、左腰やや後方にはダンプポーチ、右脚にグロック、左脚にグロック用のマガジンポーチ。

 その全てが統一された迷彩であり、百年以上も前から続く戦闘装備であることは明確であった。

 が、脚の運びや手の動かし方、そして整った顔立ち等、細かな所作を含めた全てに瀟洒な立ち居振る舞いであると感じ、状況とかけ離れた感情にファントムには戸惑う。

 手を触れられる位置まで近づいたヒェトラに見られ……息を呑む。

 月光が射し、鉄帽の影が表情を隠す中、右目だけが瞬いて見える。


「お前が死んだと聞いた那須暁啓は泣いていたぞ」


「っ!」

 予想もしていなかった言葉に声を出すこともできず、頽れた。

 暁啓との思い出が蘇り、涙が溢れる。

 地面に額を擦り付け、何度も拳を振り下ろす。

 それは後悔の念からか……絶望の念からか。

 当人にしか理解できないそれを目の前にしたヒェトラは踵を返し全体通信を開始する。


「……作戦終了。撤収」


 その言葉に従って松島に背を向けた三人。

 そしてシーナも送電塔から飛び降りた。



 ブルーケはヒェトラの行動に対し隔靴掻痒の想いを持っていた。


こんにちは、

下野枯葉です。


最近衰えを感じ、筋トレを始めました。

体を壊さないように少しずつにしたんですが……

普通に筋肉痛がきつ過ぎて大変です。

でも、筋トレ楽しぃ……。


さて『涙の理由』です。

皆さんはどんな時に泣きましたか?

嬉しい時? 悲しい時? 思い通りにいかなかった時? 挫折した時?

私は嬉しい時によく泣きます。

感動もそれに近いですね。

ファントムはどうして泣いたんでしょうか?

暁啓はどうして泣いたんでしょうか?

この二つは必ず描きます。

何故なら、それを描くことによって暁啓と少女達は報われるからです。

……そういえば、

ヒェトラはいつ泣いたんだろうなぁ。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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