五話 第四へ
四月七日
「さて、次の作戦についてだ」
ヒェトラが家の地下にある会議室で凛々しく呟いた。
スクリーンに映し出される画像は山口県の青海島。
「第四、長門だ。こちらも榛名同様にクラッキングが不可能な為直接叩く」
小さく視線を飛ばすとビーとプーが二度携帯端末を操作する。
画面にAI長門と防衛施設、設備詳細が追加された。
「長門は他のAIとは大きく異なり単独で配置されている。一番小さな施設であるが……その分集中した防衛設備が敷かれている。陸路は一つ。海に囲まれている為の利点……厄介な点と言うべきだな。夜襲であれば多少はマシになるだろう」
ブルーケは天井を見上げ絶望を味わう様に笑い、ジンシーはいつもと同じでしょ? とニコニコとしていた。
アバートはパタパタと手を振りながら全員の表情を窺っていた。
動揺。
緊張感の漂う室内に居心地の悪さを覚えてのその行動だ。
そんなことは無視してヒェトラは続ける。
「歩兵用タレット、完全武装の兵士が常時配置されている為CQB主体で行く。デッディ達はファマスに銃剣を付けろ。アバート、ビー、プーはキャリコかビゾンを。私もヘリカルマガジンを使うようにする。それとUSPは全員だ」
敵情から次の装備の命令。
潜入部隊を二分しマガジンの共有、戦闘スタイルの統一。
その言葉に合わせてスク―リーンは更新した。
「ヒェトラ、私は?」
名前を呼ばれていないことに気付いたシーナは、いつの間にかヒェトラの横に立ち、袖を引っ張っていた。
「外だ。XM500で索敵と邪魔者の排除だ。暗視装置があっただろう?」
青海島の地図に数か所の索敵ポイントが表示され、ポイントごとに半径3kmをカバーできるようになっていた。
3km、それがシーナの有効射程範囲である。
これはアイアンサイトでの情報であり、加えて光学照準器を搭載すればもっと伸びるとされている。
が、ヒェトラは確実を求め、3kmとした。
「ゴテゴテと付けたくない」
「照星なんぞ付ける前に光学照準器を頼れと言っているだろう」
シーナをデコピンで弾き飛ばし、アイアンサイトを完全否定した。
狙撃手がスコープを付けないでどうする。と睨みを追加した。
「……了解」
その強い視線がシーナを掌握した。
しかし不満はあり、口を尖らせていた。
その光景を見た他のメンバーは頬を緩ませていた。
少女達の少女達らしい笑顔があり、アバートに至っては嬉しそうに何度か頷いていた。
数秒、その状態が続いたところでヒェトラは大きく息を吸い込んだ。
視線を集めるオーバーな動作。
「それでは詳しい動きを詰める。…………傾注!」
短い言葉で静寂を齎す。
「よろしい。チョーカー起動」
張り詰めた空気に包まれ注目が集まったことを確認。
そして、命令を出す。
その場にいた全員がチョーカーを起動し、目を閉じた。
同調が開始され、全ての感覚が増強される。
人間本来の能力。
テレパシーで繋がった九人は瞬間、ヒェトラの傀儡に成り上がる。
行動の全てを操られ、叩き込まれる。
「以上だ」
ふわっと浮遊感を感じ、身体の自由を取り戻した。
その時には全てが決まり、各々が自分のやるべきこと、やらなければならないことが明確になりイメージを膨らませていた。
その中でモートレが考えを巡らせた。
「一つ」
モートレは小さく右手をあげ、発言をしようとした。
「許可する」
「ダムダム弾でも使えば?」
ダムダム弾。
打ち込んだ弾が身体の中で弾けたり残ったりすることにより、殺さず負傷兵を増やす。
不要な苦痛を長引かせ、個としてではなく群としての弱体化を狙った弾丸である。
「そんなもの使った所で情など無い奴らに効果は無い」
無情。
C2システムの警備をしている以上、命よりもシステムを優先するのは目に見えている。
それもそうか。
とモートレは肩を竦め一歩下がり、発言を取り消した。
「他に質問がある者は?」
見渡したヒェトラは数人が目を伏せ、数人が首を小さく横に振るのを見て立ち上がった。
「明後日の午後十時二十分。交代のタイミングを狙い作戦を開始する」
作戦の開始時間を共有したにも関わらず、再度言葉にしたヒェトラはブルーケに視線を合わせた。
「ということは……」
四秒。
思考を巡らせたモートレは段々と表情を暗くし始めた。
…………移動時間。
「早朝からの出動となる。早起きしろよブルーケ」
「いやぁぁぁあああああ!」
膝から崩れ落ちたブルーケは絶叫と共に天を仰いだ。
「青海島がこっちに来いぃぃぃぃぃぃいいいいいい!」
と、馬鹿馬鹿しい思考を垂れ流してからブルーケは完全に沈黙した。
「解散」
ヒェトラを先頭に会議室から続々と退出する中、ブルーケは倒れ続けていた。
デッディは退出直前にブルーケを見つめた。
「明後日の朝まで寝てろ」
冷たい言葉を投げて電気を消したデッディは、いつもより強くドアを閉めた。
こんにちは、
下野枯葉です。
仕事が増えてきました。
どうして暑くなった今、仕事が増えるんだ勘弁してくれ。
さて、次の目標の第四について少し書いていきます。
お気づきの方もいると思いますが、十二あるAIは名前の由来が決まっています。
そしてその土地に合わせて場所が決まっているのですが……。
実際に見に行きたいなぁ。
青海島行きてぇ。
と、思いました。
二一〇〇年はどんな日本になっているかなんて想像つきませんが、
きっときれいな景色は残ってるんだろうなーって思っています。
この物語ではそんなものは一切残っていませんが。
さて、体調に気を付けながら、次も書いてくぞー。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。