四十八話 鉄壁の松島
静寂に包まれた夜の海。
空も海も闇に染まる。
松島海岸から約二五○㎞の海中に潜水艦が一隻。
ゆっくりと浮上し、大型垂直発射管が八基、準備を始めた。
AI松島は潜水艦を捕捉し、注視し始めた――と同時にミサイルが発射された。
松島内で警報が鳴り響き、周辺住民に対し緊急事態宣言が発令される。
「何事だ?」
ファントムは松島のメインコンソールの前で声を荒げる。
『所属不明の潜水艦よりミサイルが発射された、ハルバードだ。着弾したら焼野原になぞ』
少年のような声の松島は、その声には似合わない言葉を並べて報告する。
「ハルバードだと?!」
艦対地ミサイル【ハルバード】。
公称されている射程は四〇〇~一五〇〇㎞、弾頭重量約五〇〇㎏、飛行速度マッハ一。
複数の誘導方法が可能で、着弾誤差は三○m。
先代のミサイルと比べ射程や破壊力据え置き、飛行速度を僅かに向上させ命中精度を飛躍的に向上させた。
今回発射されたハルバードは特に射程と弾頭重量を削ったモデルであり、複数を同時に発射することを前提に作られている。
『発射された二十四発全てを迎撃。敵戦力の特定を進めている』
再び警報が鳴る。
『複数のドローンが接近。……恐らくは爆撃』
「敵の方向は?」
『宮戸と七ヶ浜から湧いて出てきている。いつの間に準備していたのやら……』
「捌けるか?」
『問題な――』
追加の警報が三件。
『――子倅、南と西からもドローンだ。意図的に北を空けている』
言葉の途中で他の情報を取得し、ファントムへ警告を一つ。
「飽和攻撃? 鉄壁の松島相手に通じるワケが無い」
この段階で仁科は状況を処理し、松島内外に展開していた部隊に指示を送り始めた。
「仁科だ。反町より北に警戒を移せ。他方向は松島が対処する」
付近にある反町分屯地を拠点として行動を命令する。
『榛名に応援要請をかけた。子倅は北へ向かえ……望んだ相手が来るぞ』
「了解」
ファントムは狂気の笑みを浮かべて走り出し、外に待機している軽装甲機動車に乗り込んで戦地へ向かった。
一方の仁科は別室へ向かい、隊への指示拠点を構築した。
反町分屯地の北、西方向を包むように走る高速道路。
北方向、その道路上に一定間隔で配置した警護大隊は闇に紛れ、静寂の中で敵を待ち構えていた。
視線が送られている方向は一面森林が広がり、索敵用ドローンは感度が悪い。警護大隊はまだ精度がマシなレーダーを展開。
ファントムはチョーカーを起動して音をよく聞いていた。
レーダーが小動物の反応を幾つも検知する中、真っ直ぐにファントムの方向に向かう反応が一つ。
「正面から来るぞ!」
と同時にファントムも敵の接近に気付き声を荒げる。
『ウィーゼルはドローンとレーダーを頼りに前進。マーチン、シベットは挟撃に向かいつつ他の索敵を続行。オッターは待機』
仁科からの指示で隊が動き出す中、一班だけが正面に駆け出していた。
それはファントムを含めた四人だった。
それぞれがアサルトライフルとハンドガンを一丁ずつ携行し、最低限の防具を身に纏っていた。
視界と足場の悪い中、四人は一定の距離を保ちながら目標に真っ直ぐ向かう。
「甘楽、万が一に備えてバレないようにしておけ」
走りながらファントムは隊員の一人に命令を一つ。
「了解」
甘楽は短い声で返し、小柄な体を森の中に消した。
三人になった班は少し進んだ後に木に身を隠し、銃を構える。
猪突猛進。
ファントムでなくとも聞こえる足音が段々大きくなり、危機感を煽る。
誰かがファントムを目標に真っ直ぐ走ってくる。
「……そこだ」
月明りが通ったほんの一瞬……敵影を捉えたファントムが七五式 五・五六㎜小銃の引き金を引いた。
◇◇◇
ヒェトラとアバートは森の中を駆けていた。
陸奥とプーから潜水艦とドローンの攻撃が順調であることの報告を受けて、おとり作戦が軌道に乗ったことを認めての行動だ。
恐らくは待ち構えているだろう警護大隊の為にヒェトラは通信を開始する。
「距離千五百。シーナ、光か音を認めたら始めろ」
『了解』
シーナは送電塔の上で返し、照準を高速道路上の警護大隊に向けた。
「……行け」
ヒェトラはアバートに短く指示を送る。
その言葉を聞いたアバートは速度を上げて真っ直ぐに突っ込む。
アバートとファントムの距離が六百メートルを切り、月明りの下にアバートが入った瞬間――
――閃光。
それと同時に高速道路上の警護大隊の車両が攻撃を受け始めた。
こんにちは、
下野枯葉です。
鉄壁の松島。
松島への攻撃が本格的に始まりました。
ヒェトラとファントムが相対した選択肢はどう動き、
どんな未来を描くのでしょう?
そして松島の想いはどんな形をしていたのでしょう?
暁啓と松島の関係性……そしてファントムも。
様々な謎を抱えて始まった攻撃は進むにつれて、謎を明かしていきたいと思っています。
そういえば、
懐かしのゲームを購入し、ピコピコと楽しんでいたのですが
大人になって感じるものが違いますね。
結構生々しくて、世間の汚い部分を笑えるくらいに描いていました。
メチャクチャ笑いました。
もっと進めて、笑いたいと思います。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




