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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
4章 狂気の識者
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四十六話 優先権限

「これが私と暁啓の別れだ」

 一通り話し終えた陸奥はモニタの中で椅子に座り、真っ直ぐ少女達を見ていた。

 その視線は一切揺れることは無かった。

 偽りを疑う余地すら与えない視線に少女達は息を呑む。

「大戦……」

 それぞれが過去を知り、暁啓の姿を想像する中、ヒェトラは無しの内容に少し違和感を認めていた。

 僅かな興味や変化、齟齬とは核心を認める前は必ず引っかかる感覚になる……それを違和感として処理しているのはヒェトラの悪癖でもあった。

「その子供達ってなんだ?」

 デッディは表情の曇ったままのヒェトラを見て、変化を求めて質問を投げる。

 合わせて自分の率直な疑問も含めた。

「君達の様な子供が街に迷い込んだ場合、人間として扱われることは無い。……後は暁啓が救っていたと言えばわかるな?」

 陸奥の言う『街』とはC2管理下の地域を指し、絶対の支配領域とも呼べる。

 人とそれ以外を明確にし、法に反する行動の一切が罰せられる。

 ……そして法は『人間が決めたもの』だ。

 人権を持たない人間にとって法は自分たちを陥れ、搾取するものでしかない。

 外からの人間を人として扱わなくなったのはC2の管理が始まって数年後からだった。

 当初は外の人間も自分たちと同じように扱い、敬っていたが、C2の束縛という利便性の裏に隠れたストレスが人々を狂わせ、弱い存在を発散の対象とした。

 性善説なんて言葉はとうの昔に使われなくなった。

 そんな世の中でも稀に外からの人間を救おうとする者がいた。

 出来得る限りに慈悲を与え、共に生きる為にと身を削る。

 しかしそういった存在は邪魔者扱いされて消えた。

 現れては消え、現れては消え……と繰り返す中、暁啓という『力』を持った存在が救い主となったのだ。

「じゃあお父さんがいなくなってからどうなったの?」

「元に戻った……これが現実だ」

 シーナの直球の質問に言葉を選ばず、素直な言葉を返す。

「そっか、じゃあ十四年前は誰も助けてくれなかったんだね」

「そうだ」

「私達は本当に運が良かったってことだね」

 十四年前の自分に起きた悲劇を噛み締め、シーナの口から漏れたのは安堵だった。

 夢に見た死に際を思い出し、胸を撫で下ろす。

「外で彷徨う人間は数知れず。全員を助けることは無理だが、暁啓は少しだけでも助け続けていたのか?」

「どうだろうな? 村のみんなを救っていたと言えばそうだが、子供を助けたという記録は私達九人以外に聞いたことはない」

 陸奥は空白の期間に暁啓が同じ行動をしていたのか気になった。

 同じように救っていたのならばこの上なく嬉しく思ったが、ヒェトラによってそれは否定される。

 しかしそれは後ろ向きな理由ではなく一安心した。

「村の生活基盤を知ればわかるだろうな。生活維持だけで手が一杯だ」

 デッディは補足事項を一つ。

 暁啓への期待が過剰であると認識を改めさせて、決して非情な人間では無いと明言した。

「成程……理解したよ。過去はこのくらいだな。細かい事については都度聞いてくれ」

「わかった。では――C2壊滅に向けた作戦について」

 ヒェトラの言葉が場の空気を引き締める。

 過去を聞くことは概ね終わり、話を次の段階へ。

「陸奥の作戦を聞かせてもらおう」

「んー……榛名はどこにいる?」

 陸奥は少女達のこれまでと自分の知識を照合し、最善手を考える。

 その中で前提が必要な要素としてC2の榛名の存在を訊ねた。

「そりゃあもうぶっ壊しましたとも! まぁ復活したらしいけど」

 自信満々なブルーケは数カ月前の破壊作戦を思い出す。

 初めての戦果は記憶に刻まれていて、忘れることすら難しい。

 陸奥の問いに存在していることを期待している様子を察して、平謝りも一つ付け足した。

「いや、持ち帰っている」

「んえ?!」

 ヒェトラの一言に思わず声が出たのはブルーケだった。

 そしてジンシー、モートレ、アバートも驚いた顔を見せていた。

「本体のみを抜き取り完全隔離して持ち帰った。残りは全て爆破処理した」

「でも榛名は元通りになったって言ってたよね?」

 ジンシーは疑問が大きく自分だけでは処理しきれなくなり、ヒェトラに詰める様に問いを投げる。

「そうだとも。私達C2システムは、万が一消失した時の為にバックアップを取ってある。例えば今まで存在した私を陸奥1とする。陸奥1が消失した場合は他C2の協力で陸奥2を作成しC2システム運用に導入する。これにはいくつか条件がある。まず陸奥1が完全に消失しない限り陸奥2の作成をすることはできない。万が一陸奥1が存在する状態で陸奥2が作成されたとしても陸奥1が優先権限を持っており陸奥2を停止させることが出来る。ちなみに『存在する』の定義はC2システムで観測可能な状態を指す」

 状況を処理し終えた陸奥は自分のことを例に丁寧に説明をした。

「んー……つまりはどうゆーコト?」

完全隔離された榛名が存在することの重要性に気付いてもらう為の丁寧さは伝わらず、半数は真意を察することはできなかった。

遠回しな説明は無意味と知り、直接的な言葉を紡ぐ。

「今の運用されている榛名は私達の手元にある榛名を解放した瞬間に停止する」

「なるほど、すごいじゃん! もう一回榛名を倒せるね!」

 指をパチンと鳴らし喜んだブルーケに全員が視線を向ける。

 ある者は『それは無理でしょ』という視線を。

 ある者は憐れみの視線を。

 ある者は愚か者に呆れた視線を。

 総じて言えるのは理解力の欠如を認めていた。

「でもここで解放したら私達は即座に捕捉されるがな」

 愚か者に呆れた視線を送っていたデッディが嘲笑いながら予想される結末を語る。

「……タイミングが重要ってコトだね」

 自分の置かれている状況をようやく理解し、羞恥心から顔を赤く染めていた。

「上手に説明できたな」

「え、バカにした?」

「周知していることを自分の手柄の様に話すのは面白いぞ」

「~~~っ!」

「よしよし、慰めてやろうか」

「喧嘩する?」


「それくらいにしておけ。続きを聞こう」

 喧嘩するほど仲がいい。

 その言葉が似合うふたりが話を戻す気配が無いのを察して、ヒェトラは閑話休題の一言を放つ。

 陸奥は子供達の関係性を微笑みながら見つめ、暁啓がここにいたら。と、想像していた。

 もしも。

 そう何度も何度も想像し、悲しさが込み上げる。

 この感情は暁啓を思い出す度に込み上げる。

 これは後悔とも呼べるのだろうな。

 そう思い、陸奥は最善を求めて言葉を紡ぐ。

 

「優先権限を持った榛名がいるなら話が早い……次の目標は松島か金剛だ。どうせ長門も拾っているんだろう? 長門なら私が動かせる。孤立している松島を強襲するのには長門の力があれば海上に注意を引き付けて地上から強襲できる。金剛は手持ちの榛名を安全に動かす為に絶対に必要だ。……さて、どうする?」


 少女達に示した目標は二つ。

 ヒェトラは二つの選択肢に対して思考を巡らせた。


「敵戦力の減少かこちらの戦力の補強か………………次の目標は――」


こんにちは、

下野枯葉です。


4章 狂気の識者

意外にも長くなっています。

ビックリ。

でもそろそろ戦いが始まりそうです。

ちなみにこの物語は2100年が舞台ですが現実とはもちろん異なります。

詳しく言うと2020年くらいから分岐した未来のお話と言う感覚です。

ifを集め、起こり得る未来を描いています。

さて、話を今回のお話に戻して。

優先権限です。

コンピュータを使ったことがある人ならばよくわかると思いますが、

バックアップを取るのはいいんですが、いざ使うとなるとちょっと困るんですよね。

どれを使おう。現行データでも使える部分があるからそれも使いたいなぁ。

過去データにも戻したいなぁ。

そんな時にルールを決めておくと簡単だなぁ。

といった感覚のお話を書きました。

C2システムのルールの一つです。

あ、書いていてよくわからなくなってきた。

次までにまとめるか。


では、今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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