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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
4章 狂気の識者
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四十四話 別れ

二〇八一年 八月

 空を貫く様な摩天楼。

 Confederacy control system=YAMATO

 そう刻まれた重厚な扉を開き、白亜の牢獄……C2第十制御場AI大和の裡へ。

 白の世界を奥へ進み、二十四畳の部屋に辿り着いた。

中央には木製の机と椅子が一組。

暁啓は机の上のノートPCの電源を入れる。

PCが起動するまでの数秒の間、暁啓は机を何度も指で叩き、苛立ちを顕わにする。

「アキヒロ……私は成すべきことを成したまでだ」

 画面に映し出されたのは長い黒髪を一つに縛った楚々とした佇まいの女性……AI大和。

 凛々しさと儚さを両立した声が鼓膜を揺らした。

「………………それは理解しているよ、大和。でも、それでも……私は君達を許すことはできない。子供達の命を道具として扱った事は絶対に許さない」

 大和が一切表情を変えなかったことを認め一瞬言葉に詰まったが理路整然と自分の想いを紡ぐ。

「……私は法の範囲内で日本を守った。それは人間が望んだ結果だ」

「違う」

「いや、記録も残っている」

「違う!」

 戦火の中に向かう子供達の背中が脳裏を過り、机を殴った。

 その衝撃をマイクで拾った大和は初めて怒りを顕わにした暁啓に驚いた。

 乱れた呼吸を無理矢理整え、伝えなければならないことを言葉に纏める。

「私は君達に授業をしてきた……それは人間の心や情を理解してもらう為だ。特に君には家族というものを教えたはずだ……家族とは時に何よりも大切で、時に何よりも寄る辺となる存在だと教えた。それなのに君達は許されない間違いを犯したんだ。この世界には様々な人間が存在していて、互いに支え合って生きている……君達が生まれるより前は全ての人間が人間として認められていた。外で生まれた人間と裡で生まれた人間に何の違いがあるというんだ? それに加え、子供までも徴兵するのは……絶対に許すことが出来ない」

 選んだ言葉だったが語気が強くなる。

 しかし大和の表情は一切変わらない。

 外にいるのは人間以外の何か。その認識があり、徴兵ではなくただの動物兵器として子供達を戦争に利用した。

 誰も罪に問われることはない。

「……なぁアキヒロ、トロッコ問題の答えを知っているか?」

 大和は椅子と一冊の本を作り出し、座りながら問いを投げた……それは長年倫理学の大きな問題として存在する事例だ。

 暴走したトロッコがあり、レールを切り替えるレバーに触れず五人を見捨てるか、レバーを操作し一人を犠牲にするか。

「どうして今その話を?」

 AIの緊急時判断において、重要なこの問題を話す理由に薄々勘づいたが暁啓は問いを投げた。

 大和の真意を探る為の問いだ。

 その答え次第では何か汲む事が出来る事情もあるかもしれない……と思った。

「私の答えは自らを助け、多くを助ける。優先は人間、日本国民だ……わかるか?」

「……まさか、大和個人の考えなのか? 他の十一は?」

「本件に関しては私の処理を元に決定されている。他からは多様な声が上がったが、国会には私の声だけが届いた。人間を優先すると言ったら……こうなった」

 悲しみと怒りが混在した感情が暁啓を襲う。

 咄嗟に体が動き、激昂に呑まれてしまいそうになったが堪えた。

 冷静に感情を整えろ。冷静に言葉を選べ。冷静に状況を考えるんだ。

 脳内で繰り返し唱え、呼吸を整えた暁啓はゆっくりと立ち上がった。

 大和の答えは間違っていないと理解する自分と、大和の答えを否定しなければいけない自分が入り乱れ、ごちゃ混ぜになる。

 誰かが幸せになれば、誰かが不幸になる。

 全員が幸せになる未来なんてものは絶対に存在しない。

 これは議論する余地も無い馬鹿馬鹿しい理想論だ。

 でも全員が不幸になる未来なら存在する。……が、それは今考えても仕方がない。

 それならばどうして子供達だけが不幸にならなければいけないのだろうか?

 堂々巡りの中で、今とこれからを考えて一呼吸。

「人間では無いと判断したのは……誰だ?」

 絞るように出した声で大和に訊ねた。

「私と上層部だ」

「そう……か」

 短く結論だけを口にした大和は瞳を閉じていた。

 暁啓は強張った体から力が抜けて俯いた。

 瞳から生気が抜け落ちて亡霊の様に踵を返そうとした……が大和に呼び止められる。

「どうする? 私を裁くか? 私達に命令を下した永田町の御歴々を殺すか? 君にそれはできないよ」

 亡霊の向かう先を推測し、現実を提示する。

 この世の者であれば現実から逃げることはできないと忠告し、それに抗うことも否定する。

 それをすれば誰かが滅びることは明確だ。

 暁啓に言葉が届き、行き場を失った感情と足が止まる。

 そして涙が溢れた。

「……そう、だね」

 悟った暁啓は涙を止めようとすることなく、上を向いた。

 この世の理不尽を噛み締め、この時が来る前に世界とC2を正せなかったことを後悔した。

「…………お別れだ。君達にもう教えることは何もないよ」

 ゆっくり、ゆっくりと振り返り、大和を見詰める。

 視線を受けて大和は立ち上がり、胸に手を当てる。


 大和に情が湧いた。


「わかった……ならば最後の礼だけは受け取ってくれ」

「……」

 暁啓が大和の言葉を理解するより前に、部屋の奥の隠し扉が開いた。

 扉の方から消毒薬の匂いが漂った。



「外で自由に生きるんだ」



 招かれた暁啓は一歩、また一歩と歩を進め扉の向こうへ。




 そこには両壁一杯のコンピュータ……大和本体と幾本ものアームが付いた手術台があった。


こんにちは、

下野枯葉です。


別れ。

もう少しでそんな季節も訪れます。

でも、予想もしない別れも存在します。

私も数々の別れを経験してきましたが、

涙の別れも、笑顔の別れも心にぽっかりと穴が空いた気がします。


さて、大和を登場させてC2と暁啓の別れを描きました。

譲れない想いが衝突し、喧嘩別れの様になりました。

喧嘩別れは遺恨を残しますから、お互いに思うことが沢山あるでしょう。

でも、貫く信念がある者同士であれば避けられなかったことですから

仕方が無いと思う他ありません。

ちなみに大和は一番苦労しています。

そして一番人間味があります。あるんです。

そんな大和にぴったりな曲は『おちゃめ機能』です。

今後の大和の活躍に期待して下さい。

さぁ次は大和の真意を聞いてもらいましょうか。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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