四話 同調
四月四日
神馬村、少女達の家の裏庭。
モートレとシーナ、ビーが装備のメンテナンスを行っていた。
「それでどうにかならないか? ビー」
モートレは完全武装をして二、三度飛び跳ねてから溜め息をついた。
「チョーカーの出力は全開」
ビーはモートレのチョーカーにデバイスを接続して調整を行っていたが、冷静に残酷な現実を教えた。
少女達の首にあるチョーカーは脊髄に接続され、身体能力を大きく向上させている。
これがあるからこそ自分の体重と同等の装備に身を包み、戦場を駆け回ることができるのである。
しかし、脊髄への同調は個人差が大きくあり能力向上の上限はある程度決まっている。
モートレは装備の拡充を求め、同調率を上げる為ビーに相談をしていたのだ。
「何か手は無いか?」
「ないです」
ビーは諦めてくださいとゆっくりと頭を下げた。
「何でもいいんだ。もう少し増やせればと」
「方法はあるよ」
悩みを露わにしたモートレにシーナは提案を一つ。
「ほんと……か?」
モートレは振り返り、シーナを視界に入れた……が、その姿を見て呆然とした。
右手にSVU、背中には肩掛けでXM500、左脇の下にはビゾンが抱えられていた。
そして予備のマガジンが体の各部位に仕舞われていた。
126cmの体には明らかに不釣り合いだったが、苦しそうな素振りを見せることなく平然としている。
有り得ない。
モートレはそう思った。
「装備を増やすなら、トレーニング」
有り得ない。
モートレはもう一度、そう思った。
「ビー、少し軽くすることにしたよ」
諦めました。と、ビーに頭を下げてビゾンとキャリコM950、スパイラルマガジンを机の上に置いて、AUGのマガジンを増やすことにした。
「それがいい。シーナは潜在能力が高過ぎる」
「同調率だけならヒェトラ以上だからねぇ……さて、片付けるか」
モートレが手を一つ叩くとシーナが驚いた顔をした。
「射撃訓練は?」
シーナは既にXM500を構えていた。
「バレットなんてぶっ放したら村の皆が山の怒りとか勘違いするだろ?」
「……そっか。残念」
俯き、ほんの少し頬を膨らませたシーナはXM500を持ち上げ、ケースに仕舞った。
「なあシーナ。いくらブルパップと言えど大きすぎないか? 特に背も低いんだ、もう少し小さな銃を……だな?」
その異様な光景を前にモートレは提案を一つ。
九人の中でも一番背丈が小さいにもかかわらず一番大きな銃をメインに扱っているのだ。
そんな提案をしてしまいたくなるのも無理はない。
ブルパップ方式とはグリップよりも後方に弾倉、機関部を組み込んだ方式であり、全長や重量を抑えたものである。
少女達は体の小ささ故にブルパップを多く採用している。
「本当はデグチャレフがよかった」
だがシーナは不満を漏らす。
我儘だった。
デグチャレフPTRD1941対戦車ライフル。
全長二〇二〇mm、重量一五・七五kg、装弾数一発……単管パイプにストックとグリップを付けただけのような見た目の銃である。
「デグチャレフ……槍?」
ビーは記憶の中からデグチャレフの姿を思い出し、短く思ったことを口にした。
「槍じゃない。対戦車ライフル」
「二メートル越えだろう? 目立って見つかりでもしたらヒェトラに殺されるぞ?」
溜め息。
モートレは戦場でデグチャレフを持つシーナを想像し、索敵網に引っかかる姿が目に浮かんだ。
その結果のヒェトラの表情までも想像してしまい、一度だけ震えた。
恐怖。
「でもブルパップはうるさいんだもん」
「デグチャレフはもっとうるさいと思う」
シーナはブルパップ特有の不満を口にして、口を尖らせた。
それに対してビーは正論を返す。
冗談や、気を遣うといったことが苦手なビーは銃声のデータを調べ始めたがモートレがそれを止めた。
「私が戦車になる」
「勘弁してよぉ」
強い意志の宣言。
目は輝き、夢見る少女の瞳があった。
そんなシーナに参ったと言い乍ら天を仰いだモートレは涙目になっていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
いやー……環境の変化、猛暑、乱れた食生活。
これのせいで胃袋が疲れ切って、体が変になっています。
とても体調が悪いです。
それでも書くのはやめられない。
快感が凄い。
さて、ここに来てやっと設定が完全に決まりました。
十二個あるAI……C2システムとその目的。
全ての違いは細かく決まり、物語の中でどう動くのかも決まりました。
そして丙午の少女達の過去と未来も決定です。
……この『設定を書いている時』が一番気持ちいですね。
体調の悪さを無視して書いていたせいで、ぶっ倒れそう。
ちょっと、休もうぞ。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。