三十七話 敬愛を
翌朝。
ビーとプー、ヒェトラは朝食の前に陸奥の様子を見るために地下室へ。
パソコンを起動……しようとしたところで双子が異変に気付いた。
既に起動しているのだ。
何事かと思い、モニタを確認する。
そこには三件のエラーメッセージと陸奥の眠る姿があった。
「これは」
「なにごと」
マイクに向かって声を出し、陸奥を起こす。
モニタの中の陸奥は、もぞもぞと動き出し、目を擦る動きをしてこちらと目を合わせる。
「おー……? あぁ、やっと起きたか童達。人間は睡眠を必要とするのだから不便だな。お前達が寝ている間に身体も作れたぞ?」
ヒェトラは老父の家で見た陸奥の姿がそこにあり驚いた。
対して双子はエラーメッセージを見て驚いていた。
「ちなみに今は寝ていたわけではない。いいか? この身体を作り、今後の方針を考えていただけだ」
「言い訳がましいな。実際は何をしていた?」
早口の説明に対し、ヒェトラは圧を強めて詰める。
「……」
「……おい」
沈黙。
人差し指で机を何度も叩き、沈黙を切り裂こうとする。
しかし、ばつが悪そうに押し黙るだけの陸奥は背を向ける。
「エラーメッセージ……」
「外部にアクセスしようとしてた」
ヒェトラと陸奥の問答の間に双子がメッセージの内容を確認。
詳細をヒェトラに見せて怒りを煽る。
「ほう?」
「…………」
「陸奥?」
机を叩く速度が速くなる。
音を聞き、焦りを感じる。
その音は心臓を締め付ける様なものに変わり、当人以外の人間までもが不快感に苛まれる。
心臓の無い陸奥でさえ苦痛に眉を顰める。
「だってひとりにするなんて非道いだろう! せっかく自由になったと思ったら監禁されるとか……人の所業とは思えないが?!」
癇癪のような感情の起伏。
他人と触れ合うことが極端に少なかったが故の弊害。
「お前達がそうであるように私達も人ではない。わかるだろう? それと、自由は今から与える」
「え? ほんとに?」
「本当だ。お前の成果を認め、ある程度の自由を認めると言ったんだ」
「ヒェトラ、話がわかるヤツじゃないか?」
「約束を守ったまでだ。あまり戯言を吐くようならもう一度ひとりにするぞ」
「勘弁してくれ」
扱いやすい。
そう思いながらヒェトラは一笑する。
生きている年月は遥かに長いが、コミュニケーション能力の欠如のせいで、その見た目の幼さに拍車をかけるのだろう。
少し振り回して喜びを与えればそれまで。
主導権は完全に握った。
「さて、今日は過去の話を聞かせてもらいに来た。陸奥の……C2の全てを話せ」
いつも通り、会話の流れを掴んだヒェトラは安心し、椅子に腰かけて笑みを一つ。
「……いいのか?」
命令に対し杞憂を一つ。
陸奥の表情は険しく、苦しみを予測した。
「都合の悪い者を呼ぶつもりはない。外した方が良い者はいるか?」
「…………覚悟は決まっているのだろう? ならば全員で構わん。C2と那須暁啓のこと……教えてやろう」
陸奥の予想に反し、ヒェトラは仲間を想い必要以上の苦しみを与えない為の配慮を示した。
その配慮の言葉を聞いて陸奥は考えを改める。
そう、覚悟は既に全員持っているのだ。
「わかった」
陸奥の言葉を聞いてからチョーカーに触れる。
『ヒェトラだ。全員地下に集まれ』
チョーカーを通して集合の命令を放つ。
命令に従って少女たちは地下へ向かい始める。
「言い忘れていたが」
通信を終えたヒェトラに対して陸奥が声をかける。
「なんだ?」
「私は那須暁啓に敬愛を示すよ」
真っ直ぐな瞳と共に放たれた言葉。
「…………私もだ」
ヒェトラは静かに共感を一つ呟いた。
こんにちは、
下野枯葉です。
急に寒さが増し、乾燥も合わせて襲ってきました。
やっと冬が見え始めましたね。
さて、敬愛を……です。
皆さんは敬愛する人間はいますか?
私にはいます。
この上なく尊敬し、親しく接することのできる人です。
この人がいるから生き続けていられるのかもしれません。
では、少女達には敬愛の対象はいるのでしょうか?
どうやらヒェトラにはいるようです。
その他の少女は……後で確認できたらいいですね。
次回はC2の過去を話しましょう。
那須暁啓とC2。
奇譚と呼ぶことが出来そうなお話。
お楽しみに。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




