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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
4章 狂気の識者
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三十五話 最期の痛み

「アバート……」

 立ち尽くすだけのアバートは、ジンシーの呼び声に応じることなくゆっくりと顔を上げた。

「まったく……いつから聞いていた?」

 目が合った瞬間にヒェトラは問いを投げる。

 鋭く、追い詰めるような視線。

「うん……ごめんね。ついさっき来てね、真面目な話が聞こえてきて入るタイミング見失っちゃって……」

 おどおどと目を泳がせるアバートは正直に、偽りなく、状況を説明する。

 話の内容を理解していない、詳しく聞こえていないという事実を添えて謝るように目を伏せる。

「夢の話だ。博士が遺したものについて」

「……あの夢の話?」

 ヒェトラの隣に座ったアバートは不安そうな表情を隠すことなく問いを投げる。

「そうだ、ここで詳しく聞こうなんて酷なことは言わないが……次々と思い出す者が増えている。留め置け」

「わかった……」

 問いに対して煽るような答えはしなかったが、刺すような忠告を一つ。

「ふたりとも言わないようにしてるの?」

 忠告を受けてアバートが人差し指を口の前に立てたので、内密にしていることを知ったジンシーは疑問を一つ。

 どうして隠しているのか?

 その理由を聞く言葉を放ってから、思い出して後悔の表情を滲ませる。

「ジンシーは最期を話したい? 私は……辛い記憶を話したくないよ」

 一方のアバートは至って優しい笑顔を浮かべ切り出す。

 思い出すことすら憂鬱になる過去を笑顔で流す。

 その行為の痛みを想像し……もう一度後悔する。

「そうだよね……」

「……うん」

 より一層の冷たさが部屋を包み、居心地が悪くなる。

 唯一の安心できる場所であるのにも関わらず、鼓動が速くなる。

 辛い。

 ジンシーは心の中で短く呟いて俯く。

「さて――」

 刹那……ヒェトラが言葉を溢す。

 ふたりの視線が集まり、期待が膨らむ。

「――寝るか」

 空気が柔らかくなる。

 一言で場を制したそれは、意図したものかそうではないのか。

「ヒェトラ、さっきまで寝てたんじゃないの?」

「寝てたな」

「えぇ……」

「睡眠を十分に行うことは今後の作戦にも大いに影響する。そうだろう? 多くても問題ないはずだ」

 軽い問答の後、ヒェトラはそれらしい言葉を並べて持論を前面に押し出す。

 ジンシーは唖然とし、アバートは苦笑いを浮かべる。

「寝貯めはできないって博士も言ってたよ?」

 寝貯めと食溜めは何とやら。

 博士も時々口にしていた言葉をジンシーは思い出して笑う。

 戻って来た暖かい空気、安心できる場所。

 安寧の地で夜空を見上げる。

 今日は雲も少なく、良い夜だ。

 ジンシーは悲しい記憶を遠くへ置いて、今を噛み締める。

「いつまでも常識に囚われていると足下を掬われるぞ」

「……」

 今を感じた直後に受けた言葉は責められたような……でも笑って流したくなるようなものだった。

 答えに困り、黙ることしか出来なかった。

「早く寝ろ」

「はーい」

「……」

 理不尽とも思える持論の後の命令は反抗したくなるが、早く寝た方がいいのはその通り。

 アバートは従う意思を明確にしたが、ジンシーは答えずにささやかな抵抗を示した。

 その後、いつも通りアバートを真ん中にした川の字になり、部屋の灯りは消えた。



こんにちは、

下野枯葉です。


復活した下野です。

でも、ゆっくり更新になりそうです。


さて最期の痛みです。

人の最期は不思議が沢山あります。

老衰に限ったとしても謎が多く、まさに未知です。

では、それ以外の最期には何があるのでしょうか?

少なくとも、心残りが蝕み、痛むでしょう。

最期の手前まで歩いた人間がそう言っているのです。

きっと真実なのでしょう。

……少女達は何を蝕まれ、何を思うのでしょうか。


少なくともアバートはその痛みに藻掻き苦しんでいるところです。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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