三十四話 夢と記憶の力
死と死後の世界についての問答が一段落し、ヒェトラとジンシーはリラックスし始めていた。
帳も下がり始め、肌寒さを覚える。
ジンシーの肺は冷たい空気で満たされ、一瞬の眩暈を引き起こす。
クラっと世界が回り、夢のような浮遊感を認める。
心地良い。
このまま夢に潜ってしまおうかと思った刹那――嫌な記憶が脳裏に浮かんだ。
またこの記憶か。
と、心の中で毒をひとつ吐いた。
「ところでさー、この禍々しい記憶って何なの?」
不快感を覚える記憶に対しての疑問を一つ。
原因や、正体を知る為に一番知識のある人物に訊ねる。
「殺す躊躇いを消す記憶。残虐という言葉を体現した存在のそれだよ」
「んー……ん?」
「ジンシーは殺す時に躊躇ったか? 死体を見て狼狽えたか? 血の匂いで吐いたか?」
疑問が解決しきれずに首を傾げるジンシーに対し、ヒェトラは起き上がり、身近な経験を投げる。
冷徹さを孕んだ視線が浮かび、砕けた空気をもう一度引き締める。
「一度もないね」
空気を読み取って表情を戻す。
「銃を撃つときの反動に身体が耐えられなかったことは? 装備に押しつぶされそうになったことは? 殴られたときに骨が軋む痛みで悶えたことは?」
「ないね」
状況を想像し、正直に答える。
陸奥での戦闘で何度もそんな状況を経験した。
だからこそ、即座に否定することが出来たのだ。
「……先の三つの問いはそういった経験に慣れてしまった者の記憶や感性を、後の三つの問いは肉体と精神を与える――――そう、博士は『戦える』力を全員に与えた。ジンシーが不快に感じるそれは前者のものだろう」
「じゃあこの記憶はみんな持ってるの?」
「そうだ。何らかの条件で思い出し、同調率を上げる」
「ふーん……ちなみに私以外だと誰が思い出してるの?」
「私、ジンシー、シーナ……それと」
指を折って数えてから数秒。
ゆっくりと瞳を扉に合わせる。
「ん?」
急に話が止まったことを不思議に思い、首を傾げたジンシーはヒェトラに合わせて扉に視線を送った。
「入ってこい」
短く、低く呟かれた命令。
それを受けて、静かに扉が開かれた。
「……アバート」
俯き、暗い表情を見せるアバートが立っていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
一日座る用事があって腰が痛くなりました。
座りっぱなしの仕事はできないと実感。
さて、夢と記憶の力。
烈日のように爆ぜる記憶。
作者自身が書いていて辛くなる記憶について少し書きました。
本当に酷い人間は作者なのかもしれません。
十四歳程の少女達になんてことを……。
銃を握らせ……忌むべき、忘れるべき記憶を植え付けて。
謝罪の言葉をつらつらと並べたくなりますが、少女達はそれを聞く術を持っていません。
頑張って受け入れてもらいましょう。
そして、アバートに登場してもらい……悲劇に向かってもらいます。
狂気を隠すことなく、見せつけなさい。
秘めることなく、誇りなさい。
その狂気は君のせいではないのだから。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




