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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
3章 縊る道化
29/88

二十九話 再びその味を

「ねぇヒェトラ」

 陸奥の集落――その入り口。

 遠くから烏の声が響き、風が吹き込む。

 迎えの車を待ちながらジンシーは声を出した。

 ヒェトラは顎に手を当て、遠くを睨みながら、ん、と答える。

「どーだったの?」

 その言葉の先にファントムの姿が映る。

 常に共有される戦闘データの中で、ジンシーは通信記録にあった会話を見ていた。

『那須暁啓を殺したのは俺だ』

 明確な挑発。

 忌むべき存在に少々の怒りを孕んだ声を出そうとしたが、ヒェトラの反応を見てそれを仕舞った。

「相手にならん。雑魚だ」

 対してヒェトラは一切の感情を乗せずに吐き捨てた。

「おー、余裕だね。理由は?」

「言葉を交わしたのならそれまでだ……そうだろう?」

 ヒェトラの右の瞳孔が瞬き、ジンシーの顔を捉えた。

 捉える景色はほんのりとぼやけて少しのストレスが生まれる。

 ヒェトラにとってそれは数分で消え去る不快感でしかなかった。

「…………ずるい」

 目を合わせて、ヒェトラの能力を思い出す。

 ずるい。

 短く紡がれた言葉はジンシーの人間性までも写したようなものだった。

「狡くて結構。ジンシーも十分に狡くなっただろう?」

 そしてヒェトラも賢さを見せつける様に口角を上げた。

「気付いた? ねぇヒェトラ、教えてよ……私は一体どうなっちゃったの?」

 自分の身に起きた記憶が蘇る感覚を疑問に思い、抽象的に、曖昧に尋ねる。

「…………生きる為に必要なものだよ。殺される前に殺す、その為の力」

 殺す為の力。

 強烈な腐食の匂いが?

 寂しい背中が?

 縊られた者の姿が?

 わからない。と言葉が頭の中を埋め尽くし、道化の顔を消そうとする。

 だってジンシーはまだ子供だから。

「私達は全員そうなの?」

 そんな子供はこの苦痛が皆のものなのか不安になった。

 私は耐えられるけれど、他の皆は耐えられないかもしれない。

 それはあまりにも非道い話だ。

「そうだ。まだ気付いていない者もいるから……誰にも言わないように」

「ん……わかった」

 全員が知っているわけではない。

 それを聞いて少々の安心感を覚えてから了承を返す。

 了承を返した後に、好奇心が脳に訪れる。

「でも、ヒェトラには聞いてもいいよね……どうして死にそうになったの?」

「一度目はよくある忌者として、二度目は…………」

 長い静寂。

 二回も?

 と言うジンシーの疑問は声に出すことが出来なかった。

 あの苦痛を二回も。

 そう思えば、絶句するのも無理はない。

「二度目は、博士にだよ」

「――」

 ヒェトラは笑顔だった。

 普段は仏頂面だったり、無表情だったりする人間の笑顔に不気味さを覚える。

 血の匂いが混ざった風が吹き、寒気を感じる。

 震え。

 恐怖と嫌悪感と吐き気と……。

 ジンシーは狼狽し、瞳までも震える。

「ヒェト……ラ?」

 やっとの思いで喉を震わせたジンシーの声は泣き崩れる直前の童の様だった。

「……迎えが来たぞ、帰ろう」

 それを無視したヒェトラは迎えの車を認め、荷物を持ちあげた。



 二度死んだ少女はチョーカーの機能を切った。


こんにちは、

下野枯葉です。


もうそろそろ九月だというのに暑さは続きます。

そしてトリプル台風。

……。

ルビコン3に逃げます。

身体が求め続けた闘争が今ここに……。


さて、陸奥の物語もこれで一段落です。

ジンシーの感じた死はどんな味だったんでしょう。

こればっかりは私も味わったことはありませんので想像でしかありませんが……。

強烈な腐食の匂いの中にきっとあったのでしょう。

それではヒェトラは?

甘露。

ウソみたいなホントの話。

それはまた今度描きます。

お楽しみに。


血も吐瀉物もそのままでいいでしょう。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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