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CRIMINAL=9  作者: 下野枯葉
3章 縊る道化
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二十八話 縊る

 静謐の中に落ちた部屋にジンシーは入った。

 満面の笑みを浮かべながら成すことを成した少女の顔を認め、既に戻っていたヒェトラとプーはふたりを残して退室した。


 薄い呼吸音が老父から小刻みに漏れる。

 最早、刈り取ることも無く事切れるだろう。


「おじさん、ただいま」

「あぁ……おかえり」


 ジンシーはベッドの近くに椅子を寄せ、腰掛ける。

 みるみる衰弱する老父の手に触れて、脈を確認する。

 あぁ、もうこの人は終わるんだ。

 左手の薬指に嵌められた指輪がキラリと輝き、家族の存在を明確にさせる。

 独りで暮らし続けていた人間に愛した家族がいた証拠。

 それでも……その命が尽きるのに立ち会うのは私で、刈り取るのも私で。

 哀れと、悲しいと、虚しいと……私だけが叫ぶことを許されたんだ。


「孫がいてね……」

 瞳を閉じたままの老父は呟き始める。

「産まれて暫くして娘と共に亡くなってしまったと聞いてね。ここから出ることを許されなかった私の唯一の心残りさ……」

 遠い過去を思い出す。

 もう十年以上も前の話さ。と続け、悲しく笑みを溢した。

「弔うこともできなかった後悔は……縊られるよりも苦しかったよ」

 薄く開かれ、乾いた口から紡がれる言葉は明確に命を削る。

「遺してくれたものはこれだけだ」

 ゆっくりと左腕を持ち上げて首元のネックレスを示す。

 鎖には大人には小さすぎるリングがひとつあった。

「もし生きていたら君くらいだったかな……名前を聞いてもいいかな?」

 最期に問いを投げる。

 執行者の幼い顔を眺めて、瞳を合わせて。

「……暁」

 ジンシーは暁啓に貰ったものではなく、記憶の奥底に残ったものを呟く。

 守る為にと付けられた名ではなく…………本来呼ばれ続けられるはずだった名を答えた。

「あかつき?」

 耳鳴りのように届いた名前を短く繰り返す。

「そう、那須暁」

 老父の手を強く握り、その眩しさを伝える。

「暁……いい名前だね。…………さぁ、頼むよ」

 ジンシーはゆっくりと手を伸ばし、ネックレスを掴む。

 時は満ち、集落に夜明けが訪れる。

 屍の多くは既に虫が集り、血の黒さを引き立てる。

 老父とジンシーの部屋には陽の光が差し込み、空気が熱を帯び始める。

 右腕からの出血は少しずつ増え、心拍数は減る。

 嗚呼。

 私が縊る他無い。

「さようなら」

 ジンシーはチョーカーを起動することなく、ネックレスで首を絞める。

 引きちぎれそうな薄い首の皮とハッキリと飛び出た喉仏は震え、強張る。



「――――」



 静謐。

 老父の家が、陸奥の集落が……静謐に包まれた。



 ジンシーは縊ったネックレスからリングを取り、指に嵌めて部屋を出る。

 鼻腔を擽る朝の匂いが時の流れを感じさせた。

 台所で待つヒェトラ達と視線を合わせて、小さく俯いた。

「終わったよ」

「そうか…………撤収」

 状況報告を聞いて、ヒェトラは目を伏せてから命令を一つ。

 プーは迎えの手配を始め、ジンシーは装備を纏める。

 




 四月二十二日未明、AI陸奥……陥落。

 数日後、日本全土にそのニュースが駆け巡った。

 あわせて、残りのAIで現状を維持することが可能であるとの報道もされた。


 国民は疑問を持つことも無く、変わらぬ生活を続ける。




 陸奥の集落にいた人間の家族の存在が全て消えた今も……変わらぬ生活を続ける。


こんにちは、

下野枯葉です。


どうしてこんなにも時間が空いてしまったのだろうか?

書けない時間が苦痛で仕方が無くて、発狂しかけましたが生きられました。

全て片付きました。

さぁ、続きを書こう。

もっと書きたいと、そう思います。


下野枯葉……今後も書き続けます。

もし読んでいてくれている方がいるのであれば、是非、今後も読んでいただければ。


さて『縊る』です。

こうも容易く成せるとジンシーも驚いてしまうかもしれません。

ですが状況的には葛藤の中であったのでしょう。

年端もいかない女の子に、私はなんて非道いことを……。


そういえば、あの指輪はどうして子供用だったのでしょうか?

不思議ですね。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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