二十六話 命の感触
「……本当にいいの?」
遠く、遠くの空が僅かに曙色を帯び始め、暗闇に別れを告げようとしていた。
ジンシーはそんな空を一瞥して老父に問い掛けた。
「あぁ……今頃、陸奥の指示でここの住人は一か所に集まっているはずさ。……そうだろう? 陸奥」
瞳を閉じ、現との境を探す老父は支配者の名を呼ぶ。
寝室に現れたのはプーと、その端末から漏れる陸奥の声。
「勿論だ。君達がここに来た段階で指示をしてある。そして、君が私に協力を求めた時点で契約は成立した」
ジンシーは天を仰ぎ、深呼吸を一つ。
覚悟を決め、老父の側に跪いた。
「おじさん……待っててね。全部、叶えて来るから」
「ありがとう」
涙を滲ませた老父はクローゼットを指し、薄く瞼を開いた。
「使うといい」
ゆっくり立ち上がったジンシーはクローゼットを開き、そこにあった一昔前の小銃を手に取って抱える。
マガジンに弾が詰められていることを確認し、リュックに詰め込む。
「チョーカー起動」
準備を整えたジンシーは幼い身体に苛烈な記憶を刻み込み、身体能力を向上させる。
その残虐性に心は悲鳴を上げるが、表情だけは笑みを浮かべる。
――道化のように。
「行ってきます」
「気を付けて」
短い挨拶を交わし、ジンシーは住人達の集合地点に向かって走り出した。
住人達は一様に待望の眼差しで少女を迎えた。
その中には自らの命を刈り取る為の道具を持参する者もいた。
掃射してしまおうか。と悩むジンシーの目の前に一人の男が跪いた。
「――暇無く、救いを」
苦しむ間も無く死ぬことが出来るように顔を向けた。
額に一発撃ち込めばそれで終わらせることが出来る状況。
男の唇が震えているのを認めた刹那――
――ジンシーは眉間を撃ち抜いた。
死を、救いを、終わりを告げる神が目の前に現れたと住人達は歓喜の声を漏らし、命を差し出した。
示し合わせた訳でもなく順に並び、ある者は頭を垂れ、ある者は祈りを捧げ、ある者は涙を流す。
濃い血の香りが漂う。
引き金を引く行為には命を刈り取る感覚は無いが、目の前に屍が生まれる状況がジンシーの心を蝕む。
全てを救い終わるのには長い……長い時間がかかった。
その間、ジンシーの感情は揺れ動き、快楽、苦痛、興奮、憎悪が入り乱れ、循環した。
「本当にこれでよかったの?」
曙色に染まり始める空を見上げた。
心は壊れ……その場に頽れ――
「おいおい、もうひとりだろう?」
――ず、言葉を紡いだ。
老父からの小銃と弾薬の余りを投げ捨て、最速で駆ける。
死を願う人の際を見るのは……二度目だ。
こんにちは、
下野枯葉です。
一週空いてしまいました。
お久しぶりです。
実は懐かしのゲームが発売されました。
秋原町や才葉シティに行っていました。
初恋を思い出し、泣きそうです。
バトルオペレーション! セット! イン!
さて、
今回は『命の感触』です。
さて、どんな感触だったでしょうか。
目の前に命が存在し、触れる機会は多くあります。
同時に自分の命を感じる瞬間でもあります。
その瞬間に忽然と消え入りたくなるんですよね。
今回はジンシーが断続的に触れたはずです。
私と同じく消えたくなってしまったのでしょうか。
それとも噛み締めて生を実感したのでしょうか。
他の皆も知っているんだろうな。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




